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2006年12月27日(水) 22時22分

<東大教授懲戒解雇>論文不正疑惑で 「ねつ造」断定避ける毎日新聞

 東京大大学院工学系研究科の多比良和誠(たいらかずなり)教授(54)らによる論文不正疑惑について、東大は27日、多比良教授と共同研究者の川崎広明助手(38)の2人を同日付で懲戒解雇したと発表した。処分理由を「科学の信頼を損ねる行為によって、大学の名誉と信用を傷つけた」としている。研究不正にからむ懲戒解雇処分は、東大では初めて。
 会見した懲戒委員会委員長の浜田純一副学長は「自白や物証がなく、ねつ造と断定できなかったが、論文に信ぴょう性が認められなかった。科学の根本にかかわる深刻な案件であり、再発防止に努めたい」と話した。
 疑惑は、日本RNA学会が昨年4月、多比良氏と川崎氏が共同執筆したRNA(リボ核酸)の新機能に関する論文12本について、「(実験が)再現できず、信頼性が疑われる」と東大に調査を依頼して発覚した。
 2人が所属する工学系研究科の調査委員会は今年3月、そのうち4本について「不正を否定できない」とする調査結果をまとめ、学内の懲戒委員会が5月から処分を検討していた。
 発表によると、多比良氏は、川崎氏の実験結果を慎重に検討しないまま共同で論文を執筆し、研究室内外からの指摘に対しても適切に対処しなかった。川崎氏が実験の正当性を裏付ける記録を残していないことも把握しておらず、「責任著者としての責任は重い」とした。
 実験を担当した川崎氏については、実験をしたことやその結果を記録などの客観的証拠で証明できず、大学側の検証作業を妨害するような行為も2度あったとした。
 多比良氏は、疑惑を指摘された4本の論文を既に取り下げ、研究室を事実上閉鎖している。
 東大は同日、指導監督責任があったとして平尾公彦・前工学系研究科長ら5人を懲戒処分より軽い訓告処分とした。【元村有希子、西川拓】
 ■「話すのは控える」…多比良教授
 処分について、多比良教授は代理人の弁護士を通じ「処分の詳しい内容が文書で届いていないので、話をするのは控える」とコメントした。
 代理人は「多比良教授は実験担当者から示された結果に科学的見地から検討を加えただけで、法的責任を問うことは妥当ではない。懲戒解雇は相当性を欠き、違法だ。処分理由を検討し、多比良教授と協議して対応を決める」と話している。東京大が、多比良和誠教授ら2研究者に「懲戒解雇」という最も重い処分を科したのは、カネ(研究費)だけでなく、研究そのものに関する不正行為についても厳しく臨む態度の表れといえる。
 ◇解説…不正の有無より問題は説明責任
 東大は今回、不正の有無よりも、疑惑に対する説明責任を2人が果たせなかったことを処分に値すると結論づけた。18人で構成する懲戒委員会でも「異論はなかった」という。懲戒委員長の濱田純一副学長は「同じことが起きれば、他の教員も同じ結果(懲戒解雇)になる」と強調した。
 特に、今回のような生命科学の先端研究では、生きた細胞などが実験の対象だけに、当事者であっても再現が難しい場合がある。「処分が重いと前例のない研究が減る」という指摘もあるが、成果によって巨額の研究費が投入される先端研究だからこそ、当事者にはどんな疑いや検証にも応えられるだけのデータと誠実さが求められる。
 実際、論文などの業績が研究費獲得やその額を直接左右する時代になり、全国の大学や研究機関で不正行為が続いている。このため、文部科学省は今年8月、研究の不正行為に対応する指針を作った。大阪大では今月、データをねつ造・改ざんした生命機能研究科教授が懲戒解雇された。
 会見した東大の松本洋一郎・工学系研究科長は「研究者はまさかこういうこと(不正)をやらないだろう、という性善説に立ってきた。今回は想定外だった」と語ったが、科学研究の競争が激しさを増す現在、性善説だけに委ねるのは限界に来ている。【元村有希子】

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20061227-00000125-mai-soci