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2006年12月24日(日) 00時00分

東京タワー斜塔説朝日新聞

 東京タワーが曲って見える——とアマチュアカメラマンの間で、いわれている。遊覧コースでは絶好の被写体。東京見物の記念にパチリとおさめると、あの大きな図体で、なかなか直立にはおさまらない。レンズの屈折、手に持ったカメラの水平位置のせいかも知れない。ところが西側の魚籃(ぎょ・らん)坂あたりからながめると、少し右側に傾いて見えるという人がある。

 映画や小説の舞台に使われて、このところ人気が盛り返している東京タワーが開業したのは、昭和33(1958)年の昨日(12月23日)のことだった。これは開業間もない頃の記事(今回は東京版ではなく社会面)だが、すでにこんな噂(うわさ)が流布していたのである。

 「午後の日ざしで見るとタワーの左側に太陽が当り右側に影ができるので左右対称がくずれて、右側に傾いて見える」

 「東京では地平線が見えないためと、芝公園の森の木立に起伏があり人間の目がこの起伏に仮想の地平線を考えるためにタワーが曲って見える」

 なんていう、ちょっと難解な理屈をこねた“錯覚説”が二つ紹介されている。噂を打ち消すため、以下のような科学的な測定が行われることになったそうだ。

 「展望台をのせた塔の本体(二百五十二メートル)には総計二十七本の横ケタが通っているが一本ごとに中心にセンターポンチがあり、完工時には白ペンキで上下に垂直線の目印がしてあった。その後塗装してこのペンキの中心線がかくれたので目下、ポンチを頼りに中心線を出して、幅一センチの白いビニールテープを張り、これを地上からトランシットで測って塔の上から下までこのテープが垂直につながって見えればOKというわけである」

 と、なんだかわかったようなわかんないような説明だが、6日の紙面に小さくその報告記事が載っていた。

 「日本電波塔株式会社では、四日トランシットを使って、東京タワーの測定を行なう準備を進めていたが、塔の横ケタ二十七本に、それぞれ中心線のテープをはるのが予想外に大工事となるので、測定は一応延期することになった」

 いったいタワーは傾いていたのかどうなのか……その後の縮刷版をあたったが、“後報”を見つけることはできなかった。ウヤムヤにされてしまったのかと思っていたら、ちゃんと測定はとり行われたようだ。先日手に入れた「東京タワー 99の謎」(二見文庫)という本にこう記述されている。

 「現在はレーザーにより、建物の水平、垂直の検査は簡単にできるが、昭和30年代はまだそんな技術はない。トランシットという測量機器や、下げ振りと呼ばれるおもりを使い、傾きの検査が行われた。そして、導き出された傾度は4000分の1ということだった」

 ま、曲がっていたことは確かなようだが、これは建築的には微妙な誤差といえる数値で、目測で確認できるレベルのものではない。(もしや、ちょっと目を離したスキにググッと傾いたりする習性があったりするのかもしれないが……)

 ともかく、開業前からこういった噂がはびこるとは、当時のタワーに寄せる人々の関心の強さが窺(うかが)い知れる。やがて建設される新東京タワーの際にも、「ビミョーに曲がってる」なんていい出す人がいるに違いない。
=おわり

http://mytown.asahi.com/tokyo/news.php?k_id=13000140612210001