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2006年12月16日(土) 00時00分

展望2007年「地上デジタルテレビ、どこまで普及?」読売新聞


年末商戦でにぎわう地上デジタル放送対応テレビの売り場(東京・千代田区のビックカメラ有楽町店本館で)

 テレビの新時代を開く地上デジタル放送(地デジ)が今月、すべての都道府県に広がった。これで全国の3950万世帯、84%の家庭で視聴可能になる。デジタル化の利点、放送エリアの拡大と受信機普及の見通し、地上波テレビが現行のアナログ放送からデジタル放送に移行するまでの課題などをまとめた。(文化部・旗本浩二、経済部・竹内和佳子、香取直武、解説部・鈴木嘉一)

Q なぜテレビが変わる?

 「デジタル放送は、第3次産業革命とも呼ばれるIT(情報技術)の進歩と相まって、新しいサービスを生みだし、国民の生活を変える。広く全国に普及させるため、政府としても全力で取り組んでいく」

 今月1日、総務省などが都内のホテルで開いた「地上デジタル放送全国開始記念式典」。参院本会議を中座して駆けつけた安倍首相は、こうあいさつした。452団体で構成される「地上デジタル推進全国会議」の山口信夫議長(日本商工会議所会頭)も「官民一体となって横断的に進め、今後も力を結集することが重要だ」と訴えた。

 地デジは1998年、英国と米国が先頭を切った。現在は欧州やアジアなど20以上の国・地域に拡大し、国際的潮流と言える。

 日本では2001年、電波法が改正され、国の政策として導入を決めた。11年7月24日までにアナログ放送を終了させ、地デジに移行する方針に基づき、03年12月、東京、大阪、名古屋の3大都市圏で始まった。

 最大の特徴は、高画質のハイビジョンだ。走査線数がアナログの倍以上の1125本あり、映像のきめ細かさは5倍以上になる。「見るテレビから使うテレビへ」とも言われるように、データ放送や双方向機能なども売り物になっている。

 電波事情が過密な日本では、電波を有効に利用できる利点もある。デジタル技術によって周波数に空きが生じ、通信などの用途に振り向けられる。また、世界を市場とする家電業界をはじめとして、産業の活性化への効果も期待される。

 「いったい何のためにやるのかと、世間の風も決して温かくなかったが、e—Japan戦略もあり、放送事業者は3年間まい進してきた」。日本民間放送連盟の広瀬道貞会長(テレビ朝日会長)は先月の会見で、民放の立場を語った。地デジは国策として、官民挙げての“オール・ジャパン”で推進されている。

Q 受信できる地域は?

 地デジがスタートした2003年12月、全国の視聴可能世帯の割合は26%だった。放送エリアは次々に拡大し、今月1日には「空白県」だった岡山、香川、鹿児島など8県の県庁所在地でも始まった。全都道府県に広がり、84%になった。総務省は10年末までに、おおむね99%の世帯で視聴可能になるとしている。

 大きな問題は、山間部や離島といった「残り1%」への対策だ。地デジの電波が届かないこれらの地域は、11年7月にアナログ放送が終わると、「テレビの空白地域」になるからだ。

 地デジへの切り替えに伴う放送機器や中継局などの投資額は、NHK・民放合わせて約1兆2000億円に上る。民放地方局1社あたりでは40億〜50億円とみられる。民放連地上デジタル放送特別委員会の河合久光委員長(静岡朝日テレビ社長)は「ハイビジョン化しても、広告料金を上げられる環境にはない。11年7月まで同じ番組をデジタルとアナログの両方で流す経費もかさむ。投資コストを回収するのは難しい」と、苦しい台所事情を語る。

 「残り1%」のために、さらに負担が増す。そこで民放連は、中継局の整備などで国や地方自治体の公的支援を求めている。

 この問題で総務省は、インターネット技術を使うIP(インターネット・プロトコル)マルチキャスト放送や通信衛星の利用などの補完措置も検討している。

 IP放送を通して地デジを流すことについては、番組の著作権処理との兼ね合いが課題だった。文部科学省の文化審議会著作権分科会小委員会が5月、テレビ局と同じ時間にそのまま番組を流す場合に限り、著作権処理をケーブルテレビ(CATV)並みに簡素化すべきだと提言した。臨時国会に提出された著作権法の改正案は、15日の参院本会議で可決、成立した。

 これらの補完措置を講じながら、どれだけ「残り1%」を圧縮できるか、関係機関の努力が求められる。

Q どんなメリットがある?

 NHKでは一日に放送される番組の約9割がハイビジョンだが、民放では7割程度のところが多い。日本テレビの久保伸太郎社長は「スタジオの対応はすべて終了し、夜の時間帯は80%ハイビジョン化されている」と説明するが、ローカル局や番組制作会社の場合、経済的な理由からどこまで進むかは不透明だ。

 データ放送では、ニュースと気象情報の利用度が高い。特に気象情報は「パソコンより早くチェックできる」と好評だ。しかし、視聴者が投票などで番組に参加できる双方向機能は、電話線やインターネット回線をテレビに接続しなければならず、「煩雑」との声も聞かれる。

 ハイビジョン1チャンネル分の周波数帯域では、アナログ並みの画質で2〜3番組を放送できるため、違う番組を同時に流す「マルチ編成」も可能。NHKは教育テレビで実施しているが、民放は二の足を踏む。「経費やスポンサーの問題など解決することが多すぎる。やるなら、よほどの覚悟が必要」(村上光一・フジテレビ社長)という。

 一方、携帯電話やカーナビで地デジを視聴できる「ワンセグ」は今年4月スタートした。電子情報技術産業協会によると、対応する携帯電話は、200万台以上出荷された。当初は屋外や移動中の視聴が想定されていたが、意外に自宅で見る人が多く、番組ではスポーツ中継が人気とか。

 ただし、長時間使用できる電池の開発や電波の届かない地下対策が課題で、ワンセグによるデータ放送の利用も今ひとつだ。「データ放送を充実させないと、ワンセグは中途半端で終わってしまう」(君和田正夫・テレビ朝日社長)との懸念もあり、各局とも知恵を絞る必要がある。

Q 売れ行きは?

 地デジを受信できるテレビやDVDレコーダーなどの国内出荷数は、年末には計1800万台を超える見通しだ。この中には、CATV用チューナーも含まれる。前年を上回るペースは、放送エリアが全国各地に広がった事情が大きい。

 年末商戦では、松下電器が地デジ対応のプラズマテレビを4機種(50型以上)、ソニーも液晶テレビを7機種(40型以上)投入するなど、人気の大画面テレビも品ぞろえが充実してきた。全国の主要な家電量販店の販売実績を集計しているGfKジャパンによると、10月の平均店頭価格は液晶が前年同月比で25%、プラズマも21%下がり、低価格化が進んでいる。

 アナログ放送用のテレビでも、デジタルチューナー(実勢価格2万〜7万5000円前後)とUHFアンテナを設置できるタイプなら、視聴は可能。データ放送や双方向のテレビショッピングなどは楽しめるが、画質はアナログと変わらない。

11年7月完全移行へ 受信機の普及が課題

 アナログ放送が打ち切られる2011年7月、デジタルに対応しない受信機は何も映らなくなる。こうしたスケジュールはどれだけの人が知っているだろう。

 総務省が昨春まとめた調査では、わずか9・2%だった。NHKと民放、家電メーカーなどで構成される「地上デジタル放送推進協会」は、この現状に危機感を抱き、今年度は「周知率を50%以上に高めるとともに、2000万台の普及をめざす」との目標を掲げた。

 NHK・民放は「2011年7月、アナログ終了」を告知するスポットを流し、各メーカーは6月からアナログ用の受信機器について同様のシールを張っている。同協会の高島光雪専務理事は「努力が実り、すでに周知率は60%を超えたと推定している。普及の目標も達成できそう」とみる。

 国内のテレビ台数は約1億1000万台と言われる。アナログ終了までの5年弱ですべて、デジタル対応に買い替えられるのか。「全部は無理」とみる関係者が多い。国内メーカーの生産能力は年間合計で約1000万台なので、今後すべて売れたとしても1億台には届かないからだ。また、値段が安いアナログ用のテレビが相変わらず売れているのも、不安材料の一つだ。

 地上デジタル推進全国会議は今月1日、第7次行動計画を発表した。普及目標として、北京五輪が開催される08年に3600万台、世帯では2400万件、11年には5000万件という数字を示した。「少なくとも1世帯1台」をめざす。

 一足先に地デジをスタートさせた米国では、受信機の普及が思うように進まず、今年の予定だったアナログ停波の時期を09年に延ばした。最も身近な地上波テレビが計画通り、デジタルに完全移行するかは、高齢者世帯など社会的弱者への対応を含め、ひとえに受信機の買い替えの動向にかかっている。

e—Japan戦略  2001年、政府のIT戦略本部が掲げた国家戦略。「5年以内に世界最先端のIT国家となる」ことを目標にして、03年には「戦略2」が策定された。電子政府や電子自治体の実現も視野に入れ、地デジのデータ放送や双方向機能の活用が期待されている。

http://www.yomiuri.co.jp/net/feature/20061219nt04.htm