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2006年12月06日(水) 00時00分

レース中に異常気象、電磁波…? 『ハトが帰れない』 訓練中のハト。都心は危険がいっぱい=東京都江東区で 東京新聞

 「ハトが帰れなくなっている」。そんなうわさを小耳に挟んだ。ハトといえば、通信手段に利用されたほど優れた帰巣本能を持つ鳥だが、ここ最近、伝書バトレースでの帰還率がぐっと減ってきたというのだ。都心のハトが“帰宅”できない理由を探ると。

 「異常気象のせいじゃないか」

 「携帯電話の電磁波で方向感覚が狂うんだよ」

 東京・上野公園の日本鳩(はと)レース協会駐車場で先月中旬、愛鳩家(あいきゅうか)たちがこぼしあった。

 今年最後のハトレース「菊花賞」開催前夜、参加するハトを登録する持ち寄り会場でのことだ。今秋のレースでは例年になくハトの帰還率が低いといい、東京・下町の鳩舎(きゅうしゃ)でつくる東京中地区競翔(きょうしょう)連盟(会員約四十人)の愛鳩家らの表情は曇りがち。

 連盟長で荒川区東日暮里の樋口重雄さん(73)は「去年くらいからかなり帰りが悪くなっている」と嘆息した。

 ハトレースは規定の距離からハトを放ち、鳩舎に戻る速さを競う。公平を期して鳩舎のある地区ごとに開催される。

 秋のレースは、今年生まれたハトを対象に九月末ごろから百キロ、二百キロと少しずつ飛距離を延ばして開かれ、四百キロの菊花賞が最大のレースだ。

 だが、東京中地区では例年、二千羽前後が出場している菊花賞に、今回は千二百八十九羽しか出場できなかった。菊花賞までに多くのハトが帰還できず失われたためだ。

 樋口さんは「百キロや二百キロの短距離では99%戻るのが普通。悪くても九割は戻るが、十一月初旬の二百キロレースでは七割弱しか戻らなかった」と説明する。

 日本鳩レース協会によると、この傾向は三、四年くらい前から少しずつ始まっていたという。

 なぜハトが帰れなくなっているのか。

 樋口さんは「天候が悪いと帰りも悪い。強風で遠くまで流されると戻りにくいから。ハトは地磁気で方角を知るといわれていて、実際にレース直前に地震があるとなかなか戻ってこれない。帰りが悪い理由は一概には言えないが…」と前置きしながら「やっぱり、猛禽(もうきん)類の影響が大きいのでは」との説を打ち明けた。

 ここ数年、ハヤブサやオオタカなど鳥類をエサにする猛禽類が、都心で頻繁に目撃されるようになったという。樋口さんは「訓練でハトを飛ばした途端に、目の前で群れがハヤブサに襲われたこともある」という。五十年以上も下町でハトを飼育してきたが「それまでこの辺りで猛禽類はいなかった」。

 同地区に所属する江東区牡丹の愛鳩家永井勇さん(58)も「去年は鳩舎内にまでハヤブサが入ってきた」と漏らした。

 オオタカなどに詳しい独立行政法人森林総合研究所の研究員川上和人さんは「鳥を食べる猛禽類は一九八〇年代以降、都市に向けて分布が拡大している」と説明する。

 財団法人山階鳥類研究所の広報担当者も「特にオオタカは環境保全の旗頭として保護運動が盛んで、最近は都市部でもだいぶ増えているようだ」と指摘。ただ、すべての猛禽類が増えているわけではないという。「カエルやヘビを食べるサシバなどはむしろ減っている。ドバトやムクドリなどをエサにし始めたオオタカやハヤブサが、どんどん都市部に進出して“勝ち組”となっている」と補足した。

 ちなみに「携帯電話の普及などによる電磁波の影響というのは、憶測の域を出ないのでは。磁石を使ったハト除(よ)けが考案されたこともあったが、役に立たなかった」(同担当者)とも。

 さらに東京都は、昨年からハトのふんが景観を損ねるなどの理由で、都が管理する公園などでエサやり防止キャンペーンを展開。愛鳩家らは「栄養状態が悪いドバトより、食いでのあるレースハトが狙われる」と口をそろえる。

 一九六四年の東京五輪では、樋口さんら首都圏の愛鳩家のハトが開会式を飾った。だが、都心はもはや“平和のシンボル”の楽園ではなさそうだ。

 文・中山洋子

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