悪のニュース記事

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2006年12月05日(火) 22時18分

カルト問題(上)朝日新聞

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北海道大大学院教授 桜井義秀さん
 さくらい・よしひで 1961年、山形県生まれ。北海道大大学院文学研究科で宗教社会学、タイ地域研究のほか、カルト教団問題も研究。大学でのカルト対策への提言を続ける。

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日蓮宗僧侶 杉若恵亮さん
 すぎわか・えりょう 1959年、京都府生まれ。法華寺(京都府亀岡市)住職。月に1度、京都市内の居酒屋などで若者らと話し合う「ボンズクラブ」を主宰。同市内の地域FMにも出演。

 狂信的な教えで心を惑わせ、信者を犯罪へと導きかねないカルト教団がある。本人はもちろん、家族らの生活も破壊されてしまうのに、なぜ信じるのだろう。カルト問題に詳しい北海道大大学院教授の桜井義秀さん(45)と日蓮宗僧侶の杉若恵亮さん(46)が、小春日の京都で、自らの体験を交え語り始めた。(構成=編集委員・森本俊司)

■「居場所探す若者」すがる権威

 杉若 若い人と、車座の集会やラジオ番組で話す機会が多いのですが、この前「お彼岸の中日」と言ったら、「(プロ野球の)中日ドラゴンズが何かするのですか」と問い返されたことがあります。家庭から仏壇や神棚が無くなり、親の世代が無関心だから、仕方ない面もあるとは思いますけれども。

 桜井 そうですね。大学生の意識調査をすると、宗教への不信感は高まってきているようです。オウム事件の影響でしょうね。一方で、血液型判断、姓名判断などの占いをマニアックに信じる人が増えています。スピリチュアル(精神世界)や霊的なものへの関心も高く、テレビに頻繁に出演する人が発言すると、影響力は大きい。

 杉若 私の檀信徒(だんしんと)でも、霊界のことを話す人がテレビで「お盆のお飾りはこうです」と言うと、どうかなと思うことでも、そっちを信用する。なんだかメディア教という感じです。

   □   ■   □

 桜井 宗教嫌いの神秘好き、なんでしょうか。価値観が大きく揺らいでいる時代に、若い人は、自分がどこへ行ったらいいのかわからない。居場所を探しているのです。そこで「あなたは、そのままのあなたでいい」と、だれかに抱擁してもらいたい。メディアで権威づけられた人なら、なおよし。本当の自分を映し出してくれる鏡のような存在のような人物と出会いたいのだと思います。

 杉若 仕事や、子育て、夫婦の問題に悩む30代の人たちも、はまっていますね。ひところのサイババらインドの聖者ブームを支えたのは30代ですよ。日本の宗教者ではだめなんです。聖者に、ちょっとハグ(抱きしめられる)されるため、インドにわざわざ出かける。ハグされることで、今の自分がまるごと認められた気がするのでしょう。

 桜井 たぶん「あなたは世界でオンリーワン」と、権威ある人に言ってもらいたいのだと思います。霊的な能力があるとされる人たちから「あなたの前世はこうです」と言われると、平凡な自分にも特別な物語があって、神秘的な世界につながっている気分にもなれる。占いや予言で、本当の自分が何をしたいのかを示してくれ、自分の可能性を引き出してくれたと信じたいのですよ。実は、その人が考えていそうなことを言うだけなんですけれどね。

 杉若 そういえば先日、私の寺に若い男女が来ました。霊媒師を名乗る人に「4代前の先祖のたたりで、年内に死ぬ」と予言されたというのです。私なら「たたっている先祖の名前を教えて」と切り返しますけれど。困ったことに、いくら諭しても納得しない。予言されたからには、たたられないと損をした気分になっているのですね。

■入信誘う見せかけの「温かさ」

 桜井 若者の被害でいえば、大学でのカルト教団(*1)も深刻です。狙われているのは新入生。勧誘は夏休みまでが勝負だといい、中には合格発表の掲示板の前で「おめでとう。先輩としてアドバイスしてあげる」と近づいてくる教団もある。

 杉若 家族から離れ、一人暮らしを始め、まだ真っ白でしょう。そりゃ、染めやすい。

 桜井 そこを人間関係で突いてくる。大学の食堂でポツンと夕食を食べているような新入生は、格好の狙い目です。「話し相手になろう」とか「人生や社会の問題を真剣に考える会があるんだけれど」などと、教団であることを隠して近づく。脈があるとなると、教団の集会所などに招き入れ、大歓迎して、ご飯も食べさせる。温かい雰囲気を演出するのです。

 杉若 そう。とても温かく受け入れられる感じがします。実は、私は23歳のころ、キリスト教系の新宗教教団にいた友達を脱会させようと、教団の会館に3年間出入りしたことがあります。初めて行くと、みんなニコニコして、げた箱にまでお迎えに来て「さあさあこっちです」「聖書お持ちじゃないのなら、ご一緒に」と親切でした。どこか敷居の高い、伝統仏教のお寺の雰囲気とは正反対でしたね。

 桜井 それは教団のマニュアルに従ってやっているだけ。しかも、信者同士がマニュアルを守っているかどうかを監視し合っているのですよ。

 杉若 そうでした。でも、ああ歓迎されると、砂漠でレストランに着いた気分になります。

 桜井 そこですよ。何の会合なのかわからないけれども、親切にしてくれるこの人とつながっていたい、という気持ちにさせる巧妙な手法です。だから、わが身や、わが子、自分たちの学生らをどう守るのかを、真剣に考えないといけないのです。

 *1 特定の教祖や教義を熱狂的に信じ、しばしば反社会的な活動をする教団。オウム真理教の地下鉄サリン事件や、海外では集団自殺・殺人の例もある。家庭崩壊、医療拒否のトラブル、教祖らの性的暴行、霊感商法など被害は多岐にわたる。全国霊感商法対策弁護士連絡会のまとめでは、87年〜05年の統一教会による霊感・霊視商法だけで2万6444件、被害総額は943億7千万円を超える。

http://www.asahi.com/kansai/kokoro/taidan/OSK200612050017.html