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2006年11月22日(水) 23時16分

〈ふたつのM−マンガと村上春樹4〉世界に根付く自己表現朝日新聞

 「うちの学生に、マンガ家がいる」。フランクフルト大学日本学科のゲーパルト教授から教えられ、ドイツ学術交流会の奨学生として先月まで来日していたクリスティーナ・プラーカさん(23)に、東京で会った。

ドイツの少女マンガ誌「DAISUKI」。日本的な少女感覚があふれている

「日本でも本になったら、最高!」と夢を語るドイツのマンガ家クリスティーナ・プラーカさん=東京都内で

 05年春にドイツで出版された「YONEN(幼年) BUZZ」は、日独ハーフの主人公ら東京の若者4人によるロックバンドを描く連作だ。これまでに2巻出て、フランスやアメリカでも翻訳されている。

 フランクフルト近郊生まれで両親はギリシャからの移民。11歳で、テレビアニメ「アタックNo.1」に夢中になった。14、15歳のころ、日本のマンガが翻訳され始めた。元々、絵を描くのが好きだったが、自分の表現手段はマンガだと考えた。

 「アニメやマンガを通して見た日本人は何事にも一生懸命で、一つの目標に向かって集団で協力するところが素晴らしい。私には新しい世界でした。ギリシャ人はのんびりしていて、ドイツ人は個人主義だから」

 数カ月間の滞在で、日本人の友だちもできた。「でも、長く日本にいると、あこがれと現実の違いが見えてきた。ドイツを舞台に、ドイツ人が登場するマンガを描いてもいい、と思うようになりました」

    ■ ◇

 ドイツのマンガ家は女性がほとんどで30人ほど。マンガファンの主流が女性になったのは、ドイツには少女の感性に向き合う文化があまりなかったからという。90年代末に、マンガ「セーラームーン」が入ってきた時、「学校でのストレス、ボーイフレンドとの交際の悩みなど、こんなにも自分たちをわかってくれるものはないと思った」。

 フランス文学者の鹿島茂さんによると、マンガは「読者の要求に作者が応える相互的な物語世界」だ。「物語がどんどん密度を濃くする一方で、そうした世界で育った人間が、ある時からマンガで自己表現するようになる」。日本でコミックマーケットを栄えさせた構造だが、それが世界に広がりだした。

 ドイツやアメリカなどでマンガの事業展開をしているTOKYOPOPの東京本社ジェネラルマネージャー松橋祥司さんは「アメリカではすでに約100人のマンガ家が生まれた」と説明する。同社は海外のマンガの日本語訳をインターネットで売り始めた。「国や言語でマンガ家を分け隔てはしない。描きたいという欲求が強いのであれば、機会を与えたい」

    ■ ◇

 フランスでは、同国独自のコミック、BD(バンド・デシネ)の作家もマンガを意識するようになった。BD作家が結成した出版社ラソシアシオンの宣伝担当、セリーヌ・メリエンさんは「うちは自己表現としての作品を手がけている。マンガは商業的すぎる」と前置きし、「他社の若い作家には、感情表現が激しく、背景を描き込まずに余白を生かすなど、マンガの影響が見え始めた」と批判的に語った。

 文学では、「村上春樹チルドレン」と呼ばれる作家たちが韓国、中国、イギリス、ウクライナなどで次々に登場している。シンプルな言葉と表現を重ねて「シンプルでない現実を描く」という手法は「読みやすいのに内容は深い。まるでカフカのようだ」(フランスのベルフォン社担当編集者フランソワーズ・トリフォーさん)。新鮮な物語が、表現意欲を刺激するのだ。

 ロシアでの圧倒的な村上人気を知る東京大学の沼野充義教授は「ヨーロッパの知識人が好む批判的なスタンスが弱いので、知識層での評価はまだ低い。だが、文学のとらえかた、いわば『ゲームのルール』そのものを変える潜在的な力をもっている」とみる。

 同じように「ゲームのルール」を変える力をもつ海外のマンガ家が、登場するのだろうか。

http://www.asahi.com/culture/news_culture/TKY200611220306.html