悪のニュース記事

悪のニュース記事では、消費者問題、宗教問題、ネット事件に関する記事を収集しています。関連するニュースを見つけた方は、登録してください。

また、記事に対するコメントや追加情報を投稿することが出来ます。

記事登録
2006年11月21日(火) 00時00分

〈ふたつのM−マンガと村上春樹2〉鴎外本、表紙は谷口ジロー朝日新聞

 フランスでは今、日本文学の翻訳がちょっとしたブームだ。

 パリ・モンパルナスの書店。日本文学コーナーの平台には三島由紀夫や村上春樹の小説の横に、高見広春「バトル・ロワイアル」、獅子文六「自由学校」、森鴎外「青年」が並ぶ。「青年」の表紙の絵は、漫画家谷口ジローの描く、はかま姿の書生。現代のエンターテインメントも昭和文学も明治文学も、ここでは同列で新刊ほやほやだ。

 パリ第7大学のセシル・サカイ教授によれば、戦前、日本文学の仏訳は珍しかった。60年代でも三島、川端康成、谷崎潤一郎ぐらいだった。

    ■ ◇

 それが80年代半ばから変わった。アジア関係の出版社ピキエが現代文学に積極的に取り組んだのをきっかけに、読者の中で「日本文学」の位置づけが変化した。90年代からは、小川洋子、村上春樹、村上龍が、日本文学好きの読書人の枠をこえ、普通の読者に読まれるようになった。

 「中でもハルキは、この数年でブランド化しています」。02年、派手な広告で知られるベルフォン社に翻訳権が移った。「将来のノーベル文学賞受賞者」と力を入れてPRしており、今年出した「海辺のカフカ」は日本文学としては破格の7万部を超えている。

 明治から現代まで地道に目配りしているのは、05年春に始まったロシェ社の「日本選書シリーズ」。林芙美子「浮雲」に始まり、吉行淳之介「夕暮まで」、梅崎春生「幻化」など。谷口ジローが表紙の「青年」はこのシリーズだ。

 編集責任者は、パリ日本文化会館図書館で司書をしているラシャ・アバジェットさん。シリア出身。小さいころから文学好きで、仏語、アラビア語、英語でさまざまな小説を読んだ。たまたま谷崎の「富美子の足」を読み、美に対する感性が研ぎ澄まされた社会にひかれて、日本語と日本文学を学んだ。

 「林の『浮雲』は1950年ごろの小説ですが、男女の心理に、現代にも通じる深い洞察がある。日本文学を新発見する読者は多いですよ」

 谷口ジローを鴎外の表紙に使ったのは、若者の目をひく狙いだ。「今の若者はマンガを通して日本のことをよく知っているんです」

 BD(バンド・デシネ)と呼ばれる独自のコミックの伝統があるフランスは、世界でも有数の日本マンガ市場だ。90年代はじめの「AKIRA」、続いて「ドラゴンボール」の大ヒットで急激に成長、この数年も大きく伸びている。

    ■ ◇

 日本貿易振興機構によると、フランスの出版社協会が集計した日本マンガの売上高(卸値ベース)は、03年の1814万ユーロ(約27億円)から05年は4695万ユーロ(約71億円)となり、部数は1300万部を超えた。一方、BDは約1.5億ユーロ(約230億円)、3300万冊弱という。

 最近は青年マンガへと広がっており、「ブラックジャックによろしく」「藍(あい)より青し」など、タイトルも作者名も日本語のままの表紙も増えている。

 70年代から日本アニメを見て育ち、90年代からマンガに親しんだ世代が、日本文学ブームの背景にある。

 翻訳家の数も増えた。欧米の翻訳料は日本より低くて、文学の翻訳だけでは暮らしにくい。だが、マンガの翻訳で生活費をかせぎ、好きな小説をじっくり訳す、という話も聞いた。

 地下鉄に乗った。前の座席の、30代半ばの女性が何か熱心に読んでいる。少女マンガの「フルーツバスケット」だった。14歳の娘に教えられて、ファンになったという。子どもの流行は、親の世代にも浸透し始めた。

 19世紀のジャポニスム人気は、アール・ヌーボーを生んだ。この新ジャポニスムは、何を生むのだろうか。

http://www.asahi.com/culture/news_culture/TKY200611210341.html