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2006年11月07日(火) 01時30分

11月7日付・読売社説(2)読売新聞

 [フセイン判決]「宗派間抗争をあおりはしないか」

 イラク再建に肯定的な意味合いがあるかといえば、首をひねらざるを得ない判決である。

 イラク高等法廷が、元大統領サダム・フセインに、死刑判決を下した。元大統領は1982年、自らに対する暗殺未遂事件の報復のため、イラク中部の村で、イスラム教シーア派住民148人を殺害したとして、人道に対する罪などに問われていた。

 四半世紀に及んだフセイン統治の間、イラクでは、超法規的な処刑などで国民100万人が死亡したとも言われる。恐怖政治を敷いた独裁者に対する初の断罪である。

 とりわけ、苛烈(かれつ)な弾圧の対象となったシーア派やクルド族住民の間から裁判不要論の声も出る中、曲がりなりにも司法によって裁く体裁は守られた。フセイン時代、司法が機能していなかったことからすれば、一定の意味はあるだろう。

 しかし、裁判の内実を垣間見れば、司法の独立を脅かす動きや法手続きの不備など、多くの問題点をはらんだ公判だった。選挙を通じて現在は体制側だが、かつての被抑圧者による「報復判決」というのが、裁判の実態ではなかったか。

 泥沼化しているスンニ、シーア両派の宗派間抗争の火に油を注ぐ結果になりはしないか、と懸念される。暴力の対象はすでに、政治組織とは無関係な民間人にも広がっており、先月だけで1200人以上が犠牲になっている。

 マリキ政権は、こうした現実を直視する必要がある。1審段階では、政府幹部が死刑適用を呼びかけるなど露骨な政治介入もまかり通った。死刑判決だったため、規定により、自動的に上訴審が開かれるが、政府が“復讐(ふくしゅう)劇”をあおるようなことは慎まなければなるまい。

 気がかりなのは、判決が早々と確定した場合のことである。刑が確定すれば、大統領評議会の承認を経て30日以内に刑が執行されることになる。

 フセインの罪状は、イラン・イラク戦争中のクルド人虐殺のほか、化学兵器使用や90年のクウェート侵攻・併合など多岐にわたる。早期処刑が行われた場合、これら歴史の真相が十分に究明されないままになる恐れがある。

 厳しい情勢の中で、かすかな希望もある。アラブ連盟などの後押しを受け、マリキ政権は、スンニ派武装組織を含む各派を糾合した「融和会議」の準備を進めている。急がば回れ、である。国民統合の方向を地道に探り、国際テロ勢力の孤立化を進めることが肝心だ。

 国際社会も、息の長いイラク支援が必要であることを再確認したい。無論、見放すような動きは禁物である。

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20061106ig91.htm