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2006年11月02日(木) 00時00分

百戦危うし!?孫氏の商法 通話0円広告公取委も注目 東京新聞

 契約会社を変えても今の電話番号が使える「番号持ち運び制」スタートから一週間がたち、大混戦の様相を呈してきたケータイ業界。「通話0円、メール0円」をぶちあげ、狂騒に火を付けたのは、またもカリスマ孫正義氏が率いるソフトバンクモバイルだった。ライバル社は非難ごうごう。公取委からけん制球も投げられた。しかし「これこそが彼のいつものやり方」と指摘する声は多い。今回は吉と出るか、「孫子の兵法」ならぬ「孫氏の商法」。まずは街の声を聞いてみた。 (山川剛史、竹内洋一)

 まずは都内の大手家電量販店。白のイメージカラーで統一されたソフトバンクのコーナーには、システム事故のアクシデントがあったにもかかわらず、そこそこに人が集まっている。

 川崎市の自営業の男性(73)は、店員から一時間も説明を聞き、まくし立てた。

 「よくよく聞いたら0円じゃないじゃないか。時間や曜日によっては一分五十円近い。どうせソフトバンクは週明けまで機種変更もできないから、どの会社にするかじっくり考え直す」

 言い分は、こうである。番号持ち運び制が始まり、早速、ソフトバンクからau(KDDI)に乗り換える手続きをした。しかし、直後にソフトバンクの「通話0円」の広告を見て、元に戻そうと心が変わった。

■『肝心なこと皆小さな字』

 ところが店頭に来て驚いたという。ソフトバンク同士でも夜間の無料通話時間には制約があり、他社や固定電話への通話は曜日や時間帯によって料金が複雑に分かれていることを知った。「広告は無料ばかり強調するから誤解した。肝心なことは皆小さな字でしか書いてない。こんなのオレには読めないよ」と、チラシを指でたたいた。確かにこの広告に対しては、公正取引委員会も問題視し始めた。

■「チラシまるで生保の説明書」

 ソフトバンクの旗艦店、六本木店に来た杉並区の男性会社員(31)も「妻の携帯がソフトバンクなので、タダで通話できるなら携帯会社を変えよう」と来店したものの、決心がつかずにパンフレットだけもらって引き揚げた。「見てよ、このチラシ。生命保険の説明書じゃあるまいし、読む気になれない。料金体系もつい先日、急に変わったし、また変わるなら、様子を見てからでもいいか」

 同社のシステム障害については「新規参入ではよくあることで、気にしない」としながらも、「同社がインターネット接続サービスを始めた時も初期は障害があった。孫社長の戦略としては、まずお客を誘い込んでから、その後に体制を整えるってことでは」とすっかり事情を見透かしている。

 五年前にドコモからソフトバンクに乗り換え、新料金プランの相談に来た大手印刷会社の男性(55)は「会社支給も個人もソフトバンク。これまでも料金を安くしようとする姿勢があったし、携帯会社を変えるつもりはない」と断言。それでも最近の騒動には「何やってんだって気持ちはある。五日まで機種変更もできないし、しっかりしてほしいね」と話した。

 Jフォン時代から愛用してきた外資系企業勤務の女性会社員(33)は「海外に年五、六回は行くから、海外でもそのまま使えるタイプの同社の携帯は手放せない」と話し、お目当ての新しい機種を見つめた。

 ただ、システム障害については「騒ぎが続くようだとイヤになる。広告も大事な部分は細かい字で書いてあるからウソっぽい。くれぐれも『孫さんは損』だなんて思わせないでほしい」と苦言を呈した。

 ソフトバンク側も、こうした批判はある程度覚悟の上だったろう。それでも、あえて攻めに出たのはなぜだったか。

■目標は世界一ソフトバンク

 「ソフトバンクの3年後を読む!」の著書があるITジャーナリストの八木勤氏は「孫社長の目標は、五年から十年で携帯電話の世界を変え、総合デジタル情報サービス会社として世界一になることだ」と話す。

 ソフトバンクが今年四月までに、ボーダフォンの日本法人買収に投じた資金は一兆七千五百億円。その意味を次のように解説する。

 「孫氏は、これまで音声中心だった携帯電話を、世界中のインターネットに直結するモバイル端末にしようとしている。参入は携帯市場の転換点になる。テレビも見られる日本の最新の携帯技術は世界に広がる可能性がある。北京五輪を控えた中国でも需要があるだろう。そのために、まず日本で成功することが大事」

 だからこそ、ここは絶対に負けられない、天下分け目の天王山というわけだ。ところが、とたんにシステム障害の事故が起きた。孫氏にとっても痛恨の出来事だったろう。

 八木氏が語る。

 「プライドの高い孫社長が、マスコミに批判され、謝るなんて考えられない。なのに記者会見で頭を下げたのには驚いた。今後は会社を引き締めるだろう」

 その一方、ネット事情に詳しいフリーライターの井上トシユキ氏は、こんな見方をする。

 「孫社長お得意の『発表会経営』の典型でしょう。まずアドバルーンを揚げて注目を集め、具体的な仕組みや手続きを後から追いつかせていく」

■ヤフーBBの教訓どこに

 二〇〇一年にネット接続のヤフーBBを始めた際にも、孫社長が「最安値」を発表したが、NTTとの技術的な調整不足が原因で、加入者が利用まで数カ月待たされる事態となった。

 井上氏は「ヤフーBBの教訓が生かされていないのは、一部上場企業としていかがなものか。ユーザーだけでなく、NTTドコモ、KDDIも迷惑した。孫社長はまじめな人物だが、どうしても経営者としては薄っぺらな印象を受けてしまう」と批判する。

 経済ジャーナリストの水島愛一朗氏も「業界最後発で、料金でしか勝負できない焦り、顧客獲得戦略の甘さが招いた当然の帰結だ。顧客のための値下げというのは空々しい。日本で三位に甘んじていて世界一を目指すと言っても、無理な話。地に足を着け、本当に顧客が望んでいることを検討すべきだ」と求める。

 IT業界に詳しいフリージャーナリストの佐々木俊尚氏も、新料金プランに対して「細かい条件がいろいろ書かれていて、本当に通話料金ゼロなのかよく分からない。顧客をだましているように映る」と疑問を呈する。

 かつてヤフーBBは「パラソル部隊」と呼ばれる街頭キャンペーンでモデムを無料で配布し、利用者を一気に増やした。

 佐々木氏は「インターネットをよく知らない高齢者を強引に勧誘して加入させたりして、消費者センターに多くの苦情が寄せられた。また同じやり方をやっている」と手厳しい。

■厳しさ増すかユーザーの目

 一方で、長期的な観点では、ソフトバンクの功績を評価する。「ブロードバンドはNTTだと月五、六千円だったが、ヤフーBBが三千円程度に値下げしたことで、一気に普及し、日本は世界に冠たるブロードバンド大国になった。ソフトバンクが価格破壊を起こし、みんなが恩恵を被った。日本の携帯電話料金が高止まりしていることは事実だ。ソフトバンクがその価格を破壊すること自体は評価すべきだ。手法にはひどい面もあるが、この問題は長い目で評価しないといけない」

 ただし孫社長、何が得かを見極めるユーザーの目は、だんだんと厳しくなることをお忘れなく。

<デスクメモ> ITビジネスは一円玉を集める商売だ、と聞いた。わが家にも毎月、ネット接続会社から二百九十四円の請求が来る。妻に「これは何?」と聞かれるが答えられず、いつか確認しようと思って放ったままだ。日本中に同じようなのんき者がいれば、大変なもうけになる。カネがカネでなくなるような気分だ。 (充)


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20061102/mng_____tokuho__000.shtml