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2006年10月25日(水) 00時00分

音楽著作権「巨象」に挑む 「新参」イーライセンス朝日新聞

 著作権を管理する団体で最も知られている存在といえば、おそらく日本音楽著作権協会(JASRAC(ジャスラック))。音楽という大市場で、作曲家・作詞家らの著作権を一手に管理、楽曲を使った人からの徴収額は昨年度だけで1136億円に達する巨象だ。この巨象に、ひと味違ったサービスで挑む事業者がいる。まだアリのような存在だが、著作権者にとっても利用者にとっても、次代の著作権処理のあり方を考える契機になりつつある。

  

  

 大塚愛、倖田來未、Every Little Thing——。こうした人気アーティストの楽曲を含む約70曲をひっさげ、イーライセンス(東京都港区)が今月、放送使用料の管理に参入した。同社の05年度の徴収額は2.9億円だ。

 テレビ・ラジオの番組ではBGMからリクエスト曲まで大量に音楽が使われる。音楽著作権の中でも、特に巨額の使用料が動く。各著作権管理団体が放送局から徴収して、作曲家・作詞家、歌手、レコード会社に分配している。この中で、作曲・作詞家らへの分配を担うのは事実上JASRACだけだった。JASRACの05年度の徴収額1136億円に対し、NHK・民放などの放送使用料は259億円を占めている。

 しかし、01年10月に施行された著作権等管理事業法により、音楽著作権の管理事業の規制が緩和。JASRAC以外の参入が認められ、著作権者は管理団体を選べるようになった。すでに、利用を把握しやすいCDへの録音やネット配信では、01年からイー社が、02年からジャパン・ライツ・クリアランス(05年度の徴収額は4.3億円)が参入。後者は、ダウンロード数などの詳細なデータを著作権者に報告するなど透明度の高さを売りにしている。

 JASRACによる放送分野の著作権処理は各放送局に年間の放送事業収入の一定割合をまとめ払いしてもらう「包括契約」が基本だ。局にとっては、どの曲を何回、何秒使おうと額は同じで、手間がかからない。

 民放で多いCDの使用は、13週に1週のサンプル調査を各放送局にしてもらい、それを元に各作曲家らへの分配額を計算している。ある局で大量に使われても、それが調査時期から外れていれば、使用は捕捉されない。包括請求で利用者の簡便さを狙うのはJASRACの特徴ともいえ、放送以外でもカラオケボックスでの使用料を1室(定員10人まで)月額4000円とするなどしている。

 これに対し、イーライセンスが強調するのは放送分野でも「楽曲ごとの個別処理」をする点だ。1曲の使用料を、曲の使用時間などで細かく分類して規定。たとえば、民放テレビの全国放送では3分までの通常使用は1回3万円、15秒以下は5000円だ。

 JASRAC方式に対し、「分配額の計算根拠が不透明だ」と作曲家・作詞家から懐疑の声が上がったり、「プロモーション目的でCMなどの使用料を免除したくても規定が邪魔でやりにくい」(ある音楽出版社幹部)と不満が出ていたりしたことが背景にある。イー社では、権利者が望めば、使用料の値下げなどにも個別に対応する。

 JASRACも著作権者へのサービス向上を目指している。このほど、2012年度までに楽曲の使用回数などを電子データで局側から「全量報告」させ、著作権者の増収につながるよう使用料率も放送事業収入の0.5%(05年度の実質ベース)から0.75%まで値上げすることで、民放連との合意にこぎつけた。

 しかし、放送局など楽曲の利用者にとっては、楽曲管理の個別化・細分化の流れは、著作権処理コストの増加を意味する。TBSテレビの深尾隆一・コンテンツ&ライツセンター長は「全番組で楽曲の使用データを集めるのは大変だ」とこぼす。JASRACによる「独占」状態こそ利用者には楽だった、とささやかれるゆえんでもある。

 その点については、デジタル技術に期待する人もいる。

 バンド「カシオペア」のメンバーで作曲家の向谷実さんは、楽曲の著作権を公的機関に登録した上で、バーコードなどを使って利用の許諾から使用料計算までを自動処理できるシステムを提案する。「自分の曲がどこでどう使われるか完全に把握したいし、使い方も制御したいと作り手は思う。デジタル技術によって、使う側にも便利なシステムを作れるはず」

 著作物の利用がガラス張りで管理できる時代が近づく。より活発な利用が進み、表現や文化が豊かになるのか。逆に利用の自由度が奪われ、萎縮(いしゅく)してしまうのだろうか。

http://www.asahi.com/culture/music/TKY200610250252.html