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2006年10月22日(日) 03時02分

「奇跡起こすねん」福知山線事故の危篤女性が立った読売新聞

 JR福知山線脱線事故で一時は危篤状態となり生死をさまよった鈴木順子さん(31)(兵庫県西宮市)が、懸命のリハビリで目覚ましい回復を遂げている。

 家族や事故を機に友情を深めた負傷者に支えられ、日常会話を取り戻し、自力で立つこともできるようになった。「絶対に歩く。一人じゃないと思えるから、頑張って、奇跡起こすねん」。言葉はまだ途切れがちだが、屈託のない笑顔に今を生きることの喜びがあふれる。25日、あの事故から1年半になる。

 2両目で頭などを強打し、重体となった。医師から「もって3か月」と宣告を受けた母のもも子さん(58)は寝たきりの生活も覚悟し、「生きていて、温かい体に触れていられるだけでいい」とさえ思った。

 昨年9月から徐々に意識を取り戻し、「お母さん」と口にするようになった。今年3月に退院。直後、自らの手でお茶を飲んだ。

 立つための訓練を始めたのは9月上旬。週3回のリハビリで全身の筋肉をもみほぐし、脚の曲げ伸ばしを繰り返した。29日、平行棒を支えにゆっくりと両脚で立ち、10秒数えられた。

 もも子さんら家族が語りかけることで、言葉も急速によみがえった。家族の似顔絵を描く順子さんに、「美人に描いてや」ともも子さんが言うと、「えー、そのままにしか描かれへん」と切り返す。「パソコンしたい。陶芸もしたい」。失った時間を取り戻すかのように、言葉があふれ出る。

 事故に遭ったという現実とも向き合えるようになった。「この電車、おかしいな、と思ったら記憶が飛んでいた」と振り返る。最近、自宅を訪れたJR西日本の担当者に「命あってこそやから、死んでしまったら何もできない。時間より安全第一で運転して」と語りかけた。

 事故で母と叔母を亡くし自身も脚に重傷を負った浅野奈穂さん(34)(同県宝塚市)が時折、訪れる。同じ病院に入院していたのが縁で交流が始まった。一緒に食卓を囲み、互いの心身の回復を喜びながら、冗談を交わしたりもする。浅野さんは「心の底から笑って、癒やされているのは私の方かも」と話す。

 順子さんの次の目標は、歩くことだ。「チャレンジする」と決めた娘の姿に、もも子さんは「死と向き合うことで、生の意味が見つかるのかもしれない」と思えるようになった。

 今月、順子さんはA4判のノートに日記を付け始めた。まだ十分に動かない右手で、最初のページに「ありがとう」と書いた。支えられて今日があることに感謝し、順子さんは言う。

 「身の回りにいる人たちを大切にしてほしい。愛してほしい。私は、いろんな人に助けられ、生かされているって思うから」

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20061022i3w1.htm