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2006年10月02日(月) 03時06分

臓器売買 ドナー不足浮き彫り産経新聞

 生体腎臓移植をめぐり、臓器移植法の施行(平成9年10月)後、初めて「臓器売買」が摘発された。移植という高度な医療技術があるにもかかわらず、植える臓器がない。深刻なドナー(臓器提供者)不足が臓器売買の背後に横たわっている。(編集委員 木村良一)

 愛媛県警の調べによると、今回の事件では、男性患者が、内縁の妻の仲介で女性ドナーから腎臓の提供を受け、生体腎移植の手術をした。その際、ドナーに現金を支払い、車を渡した疑いがあり、男性患者と内縁の妻が逮捕された。

 健康なドナーから片方の腎臓を摘出して患者に移植するのが、生体腎移植である。腎臓は左右に2つあり、1つでも機能するからこれができる。全国腎臓病協議会によれば、昨年1年間に834件、実施されている。しかし、健康体にメスを入れる生体移植は、リスクがあり、やむを得ない緊急避難的措置でなければならない。

 逮捕された男性患者は、人工透析を受けていた。慢性腎炎を起こすと、老廃物を濾過(ろか)する腎機能が衰え、最後には意識を失って死んでしまう。治ることもない。現在、人工透析を受けている患者は、約26万人もいる。糖尿病による糖尿病性腎症患者が急増しているからだ。透析療法は過酷な面があり、そこから抜け出すには腎臓移植しかない。

 日本臓器移植ネットワークによると、登録がスタートした平成7年4月から18年8月31日までの腎移植希望患者の累計は、2万9167人である。このうち、心停止したドナーからの死体腎移植(脳死腎移植も含む)を受けられたのは1782人(6%)に過ぎず、8月31日現在も1万1564人が登録されている。

 腎臓移植と違い、脳死移植でないと不可能な心臓移植は、36人しか受けていない。臓器移植法の施行(9年10月)以来、脳死のドナーが47人(年間平均5人)と少ないからだ。

 こうしたドナー不足は、世界各国で問題になっている。かつてのような移植先進国の欧米への渡航移植は、もはや望めず、フィリピンや中南米、中国で臓器を求める日本人患者が増えている。フィリピンには生活のために腎臓を売ろうとする貧困層が多く、ブローカーが暗躍した臓器売買も公然と行われている。年間数千件という死刑執行数の多い中国は、死刑囚をドナーにし、腎臓や肝臓、心臓が摘出されている。

 だが、臓器売買や死刑囚ドナーは、本来の移植医療の姿ではない。患者を救えるのは、無償で臓器を提供しようとする「善意のドナー」しかいない。この善意のドナーを増やすには、臓器移植法の改正が必要である。

 臓器移植法はドナー本人の意志確認が絶対条件となっている。これに対し現在、国会には脳死を人の死と規定し、ドナーが生前に臓器提供を拒否していなければ、遺族の同意で提供ができる改正案が提案されている。WHO(世界保健機関)の基準と同じで、この改正案の審議に入ることが何よりも求められる。

≪移植学会、調査の方針≫

 生体腎移植をめぐる臓器売買事件は、移植推進活動を展開してきた患者や医療関係者らに衝撃を与えた。日本移植学会の田中紘一理事長は「提供者と患者の家族が移植についてどのように理解したか、手術を行った病院がどのように確認したかが問題だ」と述べ、学会として事実関係を調査する方針を明らかにした。

 臓器移植患者団体連絡会は1日、臓器移植法改正を求めるシンポジウムを都内で開いていた。連絡会の大久保通方代表幹事は「生体移植は以前からさまざまな問題点が指摘されており、改めて行政や医師、患者が議論する必要があるのではないか」と述べた。

 3年前に米国で心臓の脳死移植を受けた青山茂利さんは「移植に売買のような不明朗なことがつきまとうことが、移植医療にとっても患者にとっても最も不安だ」。

 厚生労働省は対応に追われた。原口真・臓器移植対策室長は「事実関係の確認をしたうえで、すべきことを検討したい」と話した。

≪移植医療のイメージ低下が心配 太田和夫・元日本移植学会理事長の話≫

 法律では臓器の売買を禁じており、それが守られなかったのなら残念。ただ、移植を行う病院は臓器提供者が承諾していれば手術を行う。戸籍などしらみつぶしに調べることはしないので、不可避な面もある。

 今回の事件で、移植医療全体に悪いイメージが増幅しないかが心配だ。背景には、提供される臓器が圧倒的に少ないという国際的にも恥ずかしい現状があり、そのことの方も問題とすべきだ。臓器移植医療への抑制因子となってはならない。

 限られた提供臓器のもとで、そこまでして臓器を得たいと思う患者がいても、不思議ではない。一つの事件として罰することで終わりにするのではなく、臓器提供の意思表示の数が増えるように取り組むことが必要だ。

 臓器提供はあくまで善意に基づかなければならないが、問題の根底には提供される臓器が極端に少ないことが挙げられる。死後に臓器提供をするという意思表示する人を増やすことが大切で、売買に頼らなくても臓器移植が可能な社会環境を整えることが重要だ。(談)

【2006/10/02 東京朝刊から】

(10/02 03:06)

http://www.sankei.co.jp/news/061002/sha007.htm