2006年09月30日(土) 19時08分

志布志事件で論告求刑公判（朝日新聞）

◆信用性訴える検察側、反論に自信の弁護側
　２９日に開かれた０３年４月の県議選をめぐる公選法違反事件の論告求刑公判。検察側は捜査段階で容疑を認めた６被告の供述について「自発的で、出席者や買収金の供与者などがほぼ一致し、具体的で詳細」と信用性を訴えた。一方、弁護側は「迫力がない。会合を知らせる電話記録など、客観的な物証について言及がなく、被告のアリバイも論破できていない」と指摘、「最終弁論で信用性のなさを明らかにする」と自信を見せる。１１月７日の次回公判で最終弁論が行われ、初公判から３年を超える裁判は結審する見込みだ。
　公判の最大の焦点は、６被告の自白調書の信用性だ。論告で検察側はこの点について、（１）捜査経過の中で自白は自然に供述された（２）自白は具体的かつ詳細で相互に一致している——点を主張の柱に据えた。
　検察側は（１）について、０３年４月１６日に旧志布志町内の協力者から「藤元いち子は選挙運動をしている。現金をもらっている」などとの情報を得て、翌日から捜査に入り、任意で調べた１被告がその後、会合を自白。自発的に述べられたとした。
　（２）については、会合で被告同士が口論したことや、被告が飲んだ焼酎を「うまくない」と言ったことなどを挙げ、「具体的かつ詳細」で出席者や開催時期など重要部分がほぼ一致していると述べた。
　これに対し、野平康博弁護士は（１）について「志布志町内の協力者と会って、（警察のいう）情報が虚偽との証拠がある」と話す。この人物は朝日新聞の取材にも「そんな話はしていない」と証言。また、野平弁護士は「任意とはいえ、被告を１日１２時間も調べて、自然な供述と言えるのか」と指摘する。
　（２）についても「県警が証拠として押さえているはずの、会合の日時や場所を知らせる通話記録や現金の使い道などに言及していない」と話す。
　０３年２月８日の最初の会合について、中山被告は「旧志布志町内のホテルであった同窓会に午後７時ごろから出席していた」とアリバイを主張。検察側は午後８時前後から約１時間半にわたって会合が開かれ、中山被告が同窓会を抜け出した、としており、裁判所はアリバイの成否を確かめる現場検証を行った。
　だが、検察側は論告で同窓会から買収会合への具体的な移動時間などを示しておらず、野平弁護士は「苦しい論告だ」と話す。
　弁護団はこれらの点について、最終弁論で詳細に反論していく方針だ。

◆「全部でたらめ」怒る被告
　１２人の被告は公判を終え、一様に怒りの表情を見せ、「全部でたらめ」と口をそろえた。
　買収会合の「主催者」として懲役１年１０カ月を求刑された中山信一被告（６１）は「腹が立って仕方がない。怒り狂っている」と語気を強めた。法廷内では、論告を読み上げる検察官をじっと見つめ、こぶしを握ったという。「全くなかったことで、すべて作り話。この国の人権は一体どうなったのか。日本の民主主義は崩壊した」と話した。
　結審となる次回公判に向けては、「無罪を信じて最後まで頑張る。こんな事件は私たちで終わりにしないと。二度と起こしてはいけない」。
　計２１万円を受け取ったとされる永山トメ子被告（７６）も、「根も葉もないことをよくあんなに一方的に言えるものだ」と声を荒らげた。論告の内容についても「どこが違うとかではなく、初めから何もかもが全部違う」。
　被告らを支援してきた志布志市の「住民の人権を守る会」の武田佐俊さん（６３）は「罪のない人が罪を着せられる恐ろしさを訴え、世論を喚起したい」と話した。

　■検察側論告の骨子■
　（１）一連の捜査経過からみて自然に供述された
　県警は当初、別の事件から捜査を開始し、把握していなかった買収会合事実を懐智津子被告の供述から得た。そして、中山信一被告派の運動員らが藤元いち子被告方に集合して買収会合を行った、と短期間のうちに大筋一致した供述を他５人がしたことにより買収会合が裏付けられた。県警は被告らが自白するまでこの事件は把握しておらず、参加した者でなければ述べられない事柄で、自発的に供述されているというほかない。
　（２）具体的かつ詳細である上、相互にほぼ一致するとともに、他の証拠にも合致
　藤元いち子、山下邦雄、藤山忠、懐俊裕、懐智津子各被告らは、買収会合の様子や、現金入りの茶封筒を受け取った状況などを具体的かつ詳細に供述している上、会合の出席者、開催時期など重要部分では一致している。「母が茶封筒らしきものを手渡すのを見た」という藤元被告の息子の供述など、他の証拠も各自白に合致している。
　（３）弁護人のアリバイ主張には理由がない
　中山信一被告のアリバイを裏付ける証人は、支持者や縁戚（えんせき）関係にある選挙運動者など、中山被告の支援者ばかりで、中山被告に有利な証言をしている可能性が高く、信用できない。

http://mytown.asahi.com/kagoshima/news.php?k_id=47000000609300003