2006年09月24日(日) 14時00分

＠ちば：純真無垢を逆手に＝柳澤一男　／千葉（毎日新聞）

　「あなた、お金借りたって本当？」
　田舎の母からの久しぶりの電話は唐突な言葉から始まった。なぜか息切れしている。受話器越しに緊迫感が伝わってくる。
　前日の夜、私を装った人間が半べそをかきながら実家に電話してきたのだという。「会社の設立にかかわって失敗して困っている。２００万円振り込んでほしい。携帯電話を落としたので、新しい番号にお願い」。人を疑うことを知らない母は、期限と言われた午前１１時半までに振り込まなければと、眠らずお金をかき集めた。
　翌朝、母は指示された現金自動受払機（ＡＴＭ）の前でお金を握り締めて立った。機械に不慣れだったのが運のつき。行員を呼んだところ、「怪しい」と言われた。冷静になって私の携帯に電話をしてきたのだ。
　とっちめてやろうと相手の番号に電話した。母が言うように声は若く、少し私に似ていた。名前、職業を聞いたところ、あっさり「ヤマモト、フリーター」と答えた。住所を聞いたところで「あなた誰ですか？」と逆に質問された。「振り込め詐欺をしましたね」と問い詰めると、プツリ。二度とつながらなくなった。
　人の愛は世の中で最も純真無垢（むく）だ。それを利用してだます「振り込め詐欺」は、金銭を奪う罪以上に心を踏みにじる醜い行為だ。
　ヤマモト某にも家族や大切な人がいるなら、どんな愚かなことをしたのかが分かるはずだ。罪を償って二度と同じ過ちを繰り返さないでほしい。君にもきっと愛してくれている人がいるはずだから。＜似顔絵、松戸高・高橋加寿美＞

９月２４日朝刊

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