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2006年09月23日(土) 00時00分

子どもを守ろう 奈良女児殺害・判決を前に<下)  東京新聞

 「死刑に処するのが相当」。奈良市の小一女児誘拐殺人事件で、六月五日に開かれた論告求刑公判。検察官の求刑に、元新聞販売店員小林薫被告(37)はにんまりと、笑みを浮かべた。そして足取り軽く、法廷を後にした。

 「人間性のひとかけらもない」−。検察側は論告で、小林被告の犯行をそう断じた。さらに、「死刑」か「無期懲役」かが問われた二つの最高裁判決に言及。それらに照らしても、小林被告には死刑言い渡しを避ける「特に有利な事情は見あたらない」と指摘した。

 検察側が挙げた判例の一つは「永山基準」。連続射殺事件で四人を殺害した永山則夫元死刑囚=一九九七年に死刑執行=に対し、最高裁が八三年、無期懲役判決を破棄した際に示した死刑適用の基準だ。

 永山元死刑囚は事件当時十九歳の少年だったが、最高裁は、死刑について「犯行の罪質や動機、態様、結果の重大性ことに被害者数、遺族の被害感情、社会的影響などを合わせて考察し、やむを得ない場合に許される」とした。

 もう一つは、元塗装工が白昼、主婦宅に上がり込み、乱暴、殺害して現金を奪った東京・国立主婦殺害事件。最高裁は九九年、検察側の死刑を求める上告を棄却し、無期懲役とした。しかし判決で「被害者が一人の事案でも、極刑がやむを得ない場合はある」とし、注目された。

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 「死刑を選択するかどうかの司法判断はここにきて大きく揺れている」と常磐大大学院の諸澤英道教授(刑事法)は指摘する。契機は、今年六月二十日の山口母子殺害事件の最高裁判決だ。

 九九年四月、山口県光市の社宅で、当時十八歳の少年が暴行目的で会社員本村洋さん(30)の妻弥生さん=当時(23)=を襲い殺害。泣き叫んでいた生後十一カ月の長女夕夏ちゃんも絞殺した。最高裁は無期懲役判決を破棄し、審理を広島高裁に差し戻した。

 このとき「特に酌量すべき事情がない限り死刑の選択をするほかない」とした最高裁の判断を、諸澤教授は「これまで死刑を必要やむを得ないものとしてきた謙抑主義からの大きな転換」と説明する。

 だが被害者が一人の場合、死刑の適用事例は少ない。

 昨年十一月、広島市の小学一年、木下あいりちゃん=当時(7つ)=が下校途中にペルー人のホセ・マヌエル・トレス・ヤギ被告(34)の自宅に連れ込まれ、殺害された事件で、広島地裁は七月、被告に無期懲役の判決を下している。

 「子どもの誘拐・殺人に対する社会の処罰感情は高まっている。奈良事件で死刑判決が出れば、世論の流れをくんだといえるが、判例にならい無期懲役になるのでは」。首都大学東京法科大学院の前田雅英教授(刑事法)は語る。

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 奈良事件の公判では、情状鑑定が行われ、小林被告は犯罪傾向を伴う「反社会性人格障害」と診断された。小林被告は事件の前にも二度、女児への強制わいせつ事件を起こしている。鑑定人の東京医科歯科大の山上皓(あきら)教授(精神医学)は法廷で、更生の可能性を「不可能ではないが、現状では難しい」と証言した。

 小林被告は公判の中で「死刑になりたい」と繰り返し発言。結審の後も、同様の文言を書いた手紙を裁判所に数回送り、「出所したらまた、同じことをする」と、挑発的な言葉もしたためている。

 一方で、高野嘉雄弁護人に数珠の差し入れを求め、仏教の教戒師に被害女児のためのお経を上げてもらっている。

 高野弁護人は、反社会性人格障害は、幼いころからのいじめなど不幸な成育環境によるものとして、こう訴えてきた。「責任の一端は社会にある。被告人一人に問題を帰結させ、死刑にしてはならない」

 奈良地裁はどう判断を下すのか。判決は、二十六日に言い渡される。 (岩岡千景)


http://www.tokyo-np.co.jp/00/kur/20060923/ftu_____kur_____000.shtml