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2006年09月20日(水) 00時00分

(3)二輪は適用外「えっ」読売新聞

看板娘無念 絶句の両親

サラサラの髪が自慢だった千葉紘子さん

 千葉紘子さんは、真っすぐでサラサラの髪が自慢の高校1年生だった。2004年6月5日夜、大阪府茨木市内の市道を自転車で走っていて、後ろから来た飲酒運転の中型バイクに追突され、人生を断ち切られた。15歳だった。

 2歳のころ、板前をしている父芳寅さん(47)が独立し、母淳子さん(44)と2人で大阪府高槻市の住宅街にすし店を構えた。淳子さんは店で紘子さんの世話をしながら働いた。

 忙しくなると、常連客から声がかかった。「こっちで抱っこしてあげる」。客のひざで紘子さんがにっこりすると、6人分のカウンターと、座敷が一つあるきりの、小さな店が幸せな気分に包まれた。

 人見知りをしない娘に育った。毎日、夕方になると約1キロ離れた自宅から自転車で食事を食べに来た。小学生の時からの習慣。「おっちゃん、今日は飲み過ぎや」。客と軽口を交わす姿に芳寅さんは目を細めた。「立派な看板娘や」


服役中の加害者から毎月、謝罪の手紙が届く。「少し慰められる」と芳寅さん

 あの夜。時計の針が午後8時を回り、淳子さんが「早く来なさい」と携帯電話にメールを送ったら、「はぁぃ」と返信があった。事故に遭ったのは、その10分後。後頭部を強く打っての即死だった。

 警察署の遺体安置室。芳寅さんは思わず声を荒らげた。検視の時に服を脱がされたまま、再び着せられることなく透明の袋に入れられていたからだった。「皆さんに娘はいないのですか」

 棺(ひつぎ)に遺体を納めた後、淳子さんは湯にひたしたタオルで髪についた血を丹念にぬぐい、リンスをしてあげた。それが娘の自慢だったから、どうしてもちゃんとしてあげたかった。

 相手は、左官業の男(25)だった。作業後の棟上げ式で缶ビール3、4本を飲んだ後、バイクにまたがっていた。夜なのにサングラスをかけ、時速30キロ制限の市道を90キロ以上の猛スピードで暴走していた。

 半年後、所轄署の交通課長と担当者が自宅を訪ねてきた。男も大けがで入院したため事件処理に時間がかかったこと。事故直後、治療が優先され、飲酒検知が行われなかったため飲酒運転では立件できないことを聞かされた。

 驚くことがほかにもあった。淳子さんが、「危険運転致死罪になるのですね」と尋ねると、2人は口ごもり、「(同罪は)二輪は適用外です」と言った。「えっ」と言ったきり、芳寅さんも、淳子さんも、しばらく声が出なかった。

 男はその後、業務上過失致死罪などで起訴され、懲役3年の実刑判決を受け服役した。芳寅さんは言う。

 「二輪も四輪も扱いようによっては走る凶器に変わりはない。今の法律は納得できない」

 「二輪の死亡事故は自損事故が多く、歩行者らが巻き込まれる重大事故は四輪に比べて極めて少ない。このため危険運転致死傷罪の対象から除外された」

 同罪創設前、参議院法務委員会で参考人として意見を述べた京都産業大法科大学院の川本哲郎教授(刑事学)は、そう指摘する。

 そのうえで、「5年前の同罪創設はファーストステップ。飲酒事故後のひき逃げの増加など、想定外の事態が起きているので、実態に合わせて見直せばいい」と、再度の法改正を含めた議論の必要性に言及する。

 娘の事故から9か月後の昨年3月、芳寅さんは店を閉めた。酒を出す商売がたまらなくなったからだ。しかし、三回忌を過ぎ、もう一度、板場に立ってみたいという気持ちも少しずつ膨らんできた。心に固く誓っていることがある。「車の客には絶対に酒を出さない」


http://www.yomiuri.co.jp/feature/insyu/fe_in_06092001.htm