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2006年09月09日(土) 22時47分

小さなナカちゃん、大きな置き土産 徳島・那賀川朝日新聞

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すみつき始めた頃、水面から顔を出したナカちゃん。愛らしい表情としぐさで瞬く間に人気者に=05年11月20日、徳島県阿南市那賀川町赤池で

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堤防に作られた祭壇に焼香する女性=徳島県阿南市那賀川町で

 徳島県阿南市(旧那賀川町)を流れる那賀川の中州にすみついていたアゴヒゲアザラシの「ナカちゃん」が8月27日、死体で見つかった。この町に現れて10カ月。愛敬のあるしぐさと表情の人気者を惜しみ、川岸には魚や花を供えに来る人が絶えない。

 「アザラシが出た」

 中州で寝ころんでいる姿が最初に目撃されたのは、昨年11月2日の早朝のこと。瞬く間に見物客が詰めかけた。ワイドショーが取り上げ、週末の堤防沿いは県外ナンバーの車が並んだ。

 旧那賀川町は、06年3月に阿南市への編入合併を控えていた。消えゆく町にちなんで名前が付けられ、特別住民票も交付された。「ナカちゃんパン」や「ナカちゃんうちわ」も登場した。

 やがて、いっときの騒ぎが過ぎた。ナカちゃんはこの田舎町が気に入ったようだった。そして、町の人たちになくてはならない存在になっていった。

 「見た?」「今朝、出てたよ」。こんなあいさつが交わされるようになった。散歩が日課になった人、毎日見学に来た保育園児。川辺で顔見知りになった人たちが、「ナカちゃん音頭」を考えたり、阿波踊りの「ナカちゃん連」を結成したりした。「引きこもりが治った」という主婦もいた。

 国土交通省那賀川河川事務所は、予定していた護岸工事を騒音や水質に配慮する工法に変えた。池添好巨・建設専門官は「私たちはどこか『よそ者』扱いだったのが、ナカちゃんを介して住民と対話が進んだ。仕事にやりがいを感じた」。

 地域の人たちが連絡体制をつくり、毎日のように「出現情報」を報告しあった。「ブロックのすき間に挟まりましたが、無事救出」「船揚場付近で休憩」。同河川事務所のHP上での報告は、8月25日まで続いた。

 今月3日、住民の呼びかけでお別れ会が開かれ、約250人が河川敷に集まった。「写真を撮りたくて朝5時から待った」「ここで何度も会いましたね」。一人ひとり思い出を語り合った。

 最後の那賀川町長だった臣永正廣さん(52)は「思わぬところで人と人のきずなが生まれた。感謝の気持ちでいっぱいです」と振り返った。

 死体は今、とくしま動物園に保管され、剥製(はくせい)化が検討されている。

http://www.asahi.com/kansai/news/OSK200609090055.html