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2006年09月09日(土) 00時00分

持ち込み廷内OKなぜ廷外ダメ 桶川事件 戸惑う遺族 詩織さんの上着で遺影を包んだまま裁判所の建物に入る猪野夫妻=3月31日、さいたま地裁で 東京新聞

 なぜ法廷の外では娘の遺影を掲げてはいけなかったのか−。桶川ストーカー殺人事件で主犯格とされた元東京消防庁消防士小松武史被告(40)の上告が五日棄却され、近く無期懲役が確定する。一九九九年に娘の猪野詩織さん=当時(21)=を殺害されて以来、母京子さん(56)と父憲一さん(56)が精力を注いできた刑事と民事の裁判は、これですべて決着したが、二人の心にはなお裁判所に対する苦い思いが残る。 (さいたま支局・橋本綾香)

 小松被告らを相手に起こした民事訴訟の判決のあった三月三十一日、二人は詩織さんが生前着ていた上着でくるんだ遺影を胸に抱き、さいたま地裁の正門前に立った。ここからは詩織の目とともに歩もうと、上着を外して庁舎に向かったときだった。地裁職員が遺影を覆うように求めた。

 「どうしてですか」と抗議したが認められなかった。法廷に入ってからようやく、遺影を出すことが許された。

 傍聴席への遺影の持ち込みは、桶川事件と同じ年に起きた山口県光市の母子殺人事件で、持ち込みを拒否された遺族の訴えが契機となり各地で広がった。しかし、法廷外での扱いは旧態依然のままだ。

 法廷の内外で判断が分かれるのは、両者の管轄が異なるのが一因だ。傍聴席については担当裁判長が判断する。だが、廷外では最高裁の庁舎管理規則が適用され、各裁判所長が庁舎管理権に基づいて決めている。

 高裁所在地にある全国八地裁と東京高裁、最高裁のうち、廷外で遺影を出すことを「規制していない」と回答したのは福岡地裁だけ。大半は「申請があれば個別に判断する」としたが、認めた例は「把握している限りではない」という。

 さいたま地裁総務課も「事前申請があれば、個別に判断する」との立場だが、「規則で旗やのぼり、プラカードに類するものは持ち込みが禁止されており、遺影も該当する。遺影は主張を持つもので、中立であるべき裁判所の敷地内で掲げるべきではない」と持ち込み許可に消極的だ。

 遺族にはこうした説明もなかったという。京子さんは「なぜこんなに厳しいのか。遺影はプラカードではない。何か主張するといった趣旨ではなく、娘に見せてあげたいという自然な気持ちからなのに…」と憤る。

 全国犯罪被害者の会代表で、自らも妻を殺害された岡村勲弁護士も「生きている被害者は敷地内を歩けるのに、なぜ遺影になるとだめなのか」と首をかしげる。

 遺影の扱いについては専門家の間でも意見が分かれる。井戸田侃・立命館大名誉教授(刑法学)は「覆いを外し、掲げたりして報道関係者の前を通るという行為は、宣伝性を持ちうる」と指摘。「裁判所は遺族に対して説得し納得してもらうべきだろう」と話す。

 「原告側が感情表現してはいけないという考え自体がおかしい」と言うのは常磐大の諸沢英道教授(被害者学)。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/sya/20060909/eve_____sya_____005.shtml