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2006年09月08日(金) 02時05分

9月8日付・読売社説(2)読売新聞

 [姉歯被告初公判]「建設行政と業界が裁かれている」

 一連の耐震強度偽装事件は、一人の建築士の身勝手な不正から始まっていた。その不法行為は、建設行政と業界のいたるところに潜む“おかしなこと”をあぶり出すことにもなった。

 マンションやホテルの耐震強度を偽装し、動機などについて国会で偽証した罪などに問われた元1級建築士、姉歯秀次被告は、東京地裁の初公判で起訴事実を大筋で認めた。

 法廷で姉歯被告は「申し訳ございません」と謝罪してみせたが、一生に何度とないマイホームの購入で、危険な欠陥住宅をつかまされた被害者には、受け入れがたいものだろう。

 姉歯被告が構造計算書のデータを改竄(かいざん)し、鉄筋を減らすなどして建築確認を通した建物は、起訴された六つの物件にとどまらず、99件に上る。

 国会の証人喚問で姉歯被告は、耐震強度の偽装を始めた理由を「発注者の木村建設からコストダウンの圧力をかけられたため」などと説明していた。

 しかし実際には、木村建設の物件を手がける以前から、自分が“経済設計”のできる建築士であるとアピールするために、偽装に手を染めていた。罪状認否で姉歯被告も、動機を偽っていたと認めている。耐震偽装そのものは、姉歯被告の個人犯罪だった。

 木村建設は姉歯被告を重用した。検査機関イーホームズは数多くの偽装設計を見抜けなかった。ヒューザーは欠陥マンションを多数分譲した。3社は姉歯被告に連座する形で捜査を受け、責任者が粉飾や詐欺などの罪に問われている。

 関係した企業に同情できるものではない。建設業界と行政全体に、姉歯被告の不正を見逃す土壌があった。

 建築士の名義貸し、大手ゼネコンの丸投げ、工事を受注するため会社を健全に見せかけた粉飾、安全以上にコストを重視した設計、形骸(けいがい)化した建築確認制度——多くの不正と無責任が連鎖し、複合して、悪質建築士の不法行為は、大きな広がりを持つ事件となった。

 罰則や検査制度を強化するために、先の通常国会で建築基準法など関連法規が改正された。建築士の再教育や、欠陥建築の賠償保険への加入義務づけなども検討されている。

 建物の安全性に対する不安を消し去るには、対策を実効性あるものにし、事件の背後にある業界の無責任体質を一掃しなければならない。

 起訴された姉歯被告と関係企業の経営者だけが裁かれているのではない。国土交通省をはじめ、すべての関係者がそう自覚すべきである。

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20060907ig91.htm