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2006年09月05日(火) 03時00分

被告と検察、真っ向火花 堀江被告初公判朝日新聞

 ライブドア(LD)グループを率いた前社長の堀江貴文被告(33)の公判が始まった。初日の4日は、弁護団と検察側が激しく火花を散らし、法廷内で見る限り、ほぼ互角の印象。大型経済事件では初めての集中審理となり、法曹界の注目度も高い。LD社内では「堀江氏は過去の人」と冷めた声が聞かれたが、ホリエモンという求心力を失った後遺症は軽くない。

 堀江前社長側と検察側の全面対決となった初公判では、双方が互角の分量で冒頭陳述を出し合い、激しく火花を散らす展開となった。

 検察側の冒頭陳述は、先行して5月に開かれたLD前取締役の宮内亮治被告(39)らの初公判と同様に、関係者の供述などから、堀江前社長とのやり取りを詳細に再現。宮内前取締役らと粉飾決算や不正取引などを謀議する場面で、「そりゃーすごいね」「なんで、なんで」と前社長の相づちの言葉まで出す徹底ぶりだった。複雑な資金の流れを示す4枚のチャート図も添付し、「国民の目にもわかりやすく」(検察幹部)という意識がうかがえた。

 これに対し、弁護側は、公判前整理手続きで開示された段ボール箱約20箱分の証拠書類を分析。「重大な犯罪であるかのように主張するが、検察官の幻想に過ぎない」「主張は極めて不合理」などと厳しい批判を冒頭陳述にちりばめ、無罪を強く訴えた。

 4日の閉廷後、堀江前社長は弁護人を通じて「いよいよ始まったなという感じです。今日のように長い時間じっと座っていたことは初めてです。座っているだけでも体力を使うものだと思いました。今日の証言を聞いていて驚くことがいろいろありました。これからも、法廷で事実を明らかにするよう頑張ります」とのコメントを出した。

 事前に絞り込まれた主要な争点は、(1)粉飾決算の手口に使われた投資事業組合(投資ファンド)はLDのダミーか(2)堀江前社長の粉飾決算などへの認識(3)関連会社「ライブドアマーケティング」の企業買収に関する発表は虚偽か——の3点となっている。

 今後の公判の最大の山場は、15日から予定されている宮内前取締役に対する証人尋問だ。起訴事実を大筋で認め、堀江前社長の指示などを供述した宮内前取締役は、最大の「検察側証人」のため、前社長側との法廷対決が予想される。

 弁護側は冒頭陳述でも、LDグループでは宮内前取締役の存在が極めて大きかったと主張した。05年暮れごろ、前取締役が宴席で「ライブドアはおれの会社だよな」と話し、前社長が「僕は表の顔としてPR活動を頑張ります」と応じたエピソードまで明かし、企業買収などを前取締役が主導していたと強調。前取締役の供述に基づく前社長主導の事件構図が成り立たないことを、暗に示そうとしたとみられる。

 堀江前社長の公判は、大型経済事件では初めて、「公判前整理手続き」が適用され、集中審理が可能になった。裁判員制度をにらんだ「実験公判」だ。

 公判前整理手続きは、09年5月までに始まる裁判員制度に備え、刑事裁判をスピードアップする目的で05年11月に導入された。これまでは殺人など凶悪事件が主で、経済事件では例がない。この新制度が、堀江前社長の公判に適用された結果、裁判官、弁護士、検察官の3者が5月から争点整理などのため計10回も協議した。

 一時は、弁護側と検察側の話し合いが難航し、裁判官が迅速化を求める場面もあった。最終的には、9月から11月までの3カ月間に計26回の集中審理が実現することで話がまとまった。

 従来、この種の刑事裁判では、月1、2回のペースが普通だった。リクルート事件の江副浩正元会長のケースでは、一審判決までに13年3カ月と長期化。ロッキード事件の故田中角栄元首相の場合も一審だけで6年9カ月を要した。堀江前社長の公判が順調に進めば、これから半年後には判決言い渡しにいたる見通しだ。

 この公判が順調に進み、審理期間の大幅短縮が図られれば、ほかの公判への影響は大きい。重要裁判が同じ手法で処理されていく可能性が高い。

 「へえ、こんなこと言ったんだ」。4日、東京・六本木ヒルズのライブドア本社では、社員らが堀江被告の罪状認否の内容をネットの速報で確認しあった。「無罪になったらおもしろいなあ」と冗談交じりに話す若手社員もいた。

 ただ経営陣や幹部社員の反応はもっと冷めている。ある幹部は「日々の業務が忙しく、堀江被告の裁判にそれほど関心はない」と話す。

 意気軒高な堀江被告と裏腹に、ライブドアの負った事件の後遺症は軽くない。強制捜査後、新規受注が止まり、昨年10〜12月に321億円に達した金融部門の売上高は、今年4〜6月はわずか14億円。経営幹部からは「早めに仕切り直さないと、スタッフの士気にも響く」との声が漏れる。

 金融部門は現在、複数の投資ファンドに絞り込み売却先を選定中。「本業」と期待するポータルサイト事業も、広告収入の回復が遅れ赤字が続く。切り札とされた有線放送大手のUSENとの経営統合は、USEN側の事情もあって進んでいないのが実情だ。

 ライブドアには現金や保有株式などの資産が今も1000億円以上あり、すぐに経営不安に結びつくとは考えにくい。だが赤字が続けば、大株主の海外ファンドなどの目が厳しくなるのは必至だ。

 平松庚三社長は4日朝、報道陣に対し「(堀江被告は)世間を騒がせたのだからすべてを明らかにしてほしい」と発言。最近では、自社で配信を始めたインターネットラジオ番組で、「ライブドアには金融資源も優れた人的資源もある」と述べ、テレビ出演も積極的にこなすなど、再生の「広告塔」としてイメージ向上に懸命だ。

 ただ、堀江被告は今も17.24%の株式を持つ筆頭株主。弁護士によると、株を手放す動きは当面なさそうという。社内には復帰を望む「堀江待望論」も一部に残る。

 同社のシステム面を支えてきた山崎徳之・代表取締役は6月に退職し、他の元幹部とネットベンチャーを起業。古くからの幹部でポータルサイト改革の中心だった元執行役員もそこに加わった。「ネットに詳しい経営者がほとんどいなくなった」と嘆く社員もおり、経営陣は求心力の維持に苦心が続きそうだ。

http://www.asahi.com/national/update/0904/TKY200609040359.html