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2006年07月31日(月) 00時00分

DVD化で揺れる人気映画の2次利用読売新聞


コスミック出版の事務所の在庫棚には、「風と共に去りぬ」「第三の男」など、名作映画の廉価版DVDが並ぶ(東京都文京区で)

 著作権をめぐる動きが慌ただしい。映画「ローマの休日」の廉価版DVDを機にクローズアップされた著作権の保護期間の延長問題は、文学、音楽、美術の分野でも差し迫った課題となっている。著作権者の権利はさらに拡大するのか。それは利用者のメリットにつながるのか。表現の自由とのかねあいは——。揺れる著作権の現場を取材した。

 2003年の著作権法改正によって、映像分野の著作権の保護期間は「公表後50年」から70年に延長された。文化庁著作権課は〈1〉映画は他の著作物より2次利用の機会が多い〈2〉著作物の保護期間は制作年ではなく「著作者の死後50年」。対して映画の「公表後50年」は短い——と延長の理由を説明している。

 そこでクローズアップされたのが「ローマの休日」や「第十七捕虜収容所」など、1953年公開作品の著作権だ。

 2次利用の象徴であるDVDはここ数年、米ハリウッドのメジャー系映画会社にとって、スタジオ運営の生命線になってきた。というのも映画館の入場者数は頭打ち状態で、劇場収入は収益全体の20%以下に減少。代わって40%以上をビデオ・DVD関連の売り上げが占めるといわれる。

 すでにDVDの収益は映画製作費の重要な原資であり、その収益減は映画会社に、製作体制の変更を迫ることにつながる。「ローマの休日」の正規版を日本で販売する「パラマウント・ホーム・エンタテインメント・ジャパン」の市場調査担当ディレクター、中瀬桂子さんは、「DVDの収益は、ほとんど製作費に回している。でも廉価版の販売者は、新作の創造には携わっていない人たちですから」と、“薄利多売”を批判する。

 画質の差も歴然としている。同社が2003年に製作した「デジタル・ニューマスター版」は、保存状態の良好なフィルムをデジタル処理した映像を収録。それが4179円という価格に反映している。

 映画評論家の田沼雄一さんも、「やはり映画は、画面がきれいな状態で見るのが理想だろう」と話す。オーソン・ウェルズ監督の代表作「市民ケーン」(1941年)は、画面の手前と奥、同時に焦点を合わせるパン・フォーカスという手法を採用した初期の名作だが、廉価版では画面全体がぼやけ、その効果がよく伝わらない。田沼さんは「監督がこれを見たら怒るはずだ」と憤る。

 一方で廉価版の人気も高い。その大手「コスミック出版」では「シャレード」が12万本、「カサブランカ」「第三の男」がそれぞれ10万本売れた。しかし、他のメーカーが先行販売している廉価版の中で一番人気の「ローマの休日」については、保護期間の問題に決着がつくまでは販売を見合わせている。

 同社の岡田武生会長は、「映画の製作費は50年で償却しきっていると考える。誰のための期間延長か。ユーザーの選択肢を狭めてはならない」と話す。

 保護期間の延長を求める声は、現行では「著作者の死後50年」の文学や音楽、美術、写真などの分野でも、高まっている。

 2004年に国内の版権が切れたサン=テグジュペリ「星の王子さま」など、死後70年まで保護されている欧米作家の作品は、50年が過ぎた日本で、次々と新訳が出版され、話題にもなった。日本文芸家協会の三田誠広副理事長は、「先進国として50年のままでは恥ずかしい。国内でもあと10年で谷崎潤一郎、高見順、江戸川乱歩ら偉大な作家たちの著作権が切れ、出版も翻訳もいきなり自由になる。粗悪な出版物が出回る事態も起こりかねない」と懸念する。

 2500人の著作権者から成る同協会と日本音楽著作権協会など14団体は、今月上旬、文化庁へ法改正を急ぐよう求める方針で合意したばかりだ。

 しかし、各業界も一枚岩とはいえない。音楽関係者の間では「著作権を開放し、誰でも自由に使えるようにした方が、音楽文化の振興には役立つ」という延長反対論も根強い。作家の中にも「著作物を廉価で普及させるほうが、作品生命を延ばすのではないか」という声もある。

 知的財産権に詳しい藤田康幸弁護士は、「50年に満たない著作物の中にも、すでに権利者がはっきりせず、利用の許諾の取りようのないものがある。70年に延長されれば、著作権の管理はさらに困難になるだろう」と、延長の実効性に疑問を呈する。

 保護期間の延長問題は、昨年、文化庁の分科会でも検討課題に挙げられた。甲野正道・著作権課長は、「様々な要望があることは承知している」と認めるが、ただちに決着がつく見通しは今のところない。それでも年を追うごとに名作の著作権は確実に失効していく。議論を待つ猶予はない。

「ローマの休日」を巡る著作権保護問題  映画「ローマの休日」「第十七捕虜収容所」の2作品のDVDを500円で販売していた業者に対し、著作権を所有する「パラマウント・ピクチャーズ・コーポレーション」(米国)が、販売差し止めの仮処分を求めた。東京地裁はこの申し立てを却下。著作権法の改正で、「1953年に公表された作品の保護期間は70年に延長される」とする文化庁の見解を否定した。同社は、決定を不服とし、知財高裁に即時抗告した。

http://www.yomiuri.co.jp/net/feature/20060802nt06.htm