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2006年06月24日(土) 00時00分

ハマる数学 脳を鍛え 心に潤い読売新聞

挑む「和算」 売れる書物

 学生時代に悩まされた数学に再び取り組む人が増えているという。日本古来の「和算」に挑戦したり、パズルを解いたりと、楽しみ方は様々。数学関係の書物も売れ行き好調だ。


売れ行きの好調な数学書(東京・八重洲ブックセンターで)

 江戸時代に発達した我が国独自の数学「和算」。円周率、行列式など高度な概念を扱っていたことを示す和算書も残っている。

 「日本数学史学会」会長の佐藤健一・国士舘大非常勤講師は、「江戸庶民は数学好きだった」と話す。その和算の楽しさを現代に味わう「和算研究会」の活動が活発化し、昨年からは全国規模の研究大会が開かれるようになった。各地の研究会員は中高年を中心にじわじわ増えているという。

 神奈川県小田原市で開かれた県和算研究会の学習会では、9人の男性が和算に取り組んでいた。

 「問ニ大中小円径幾何ヲ……」。江戸時代の和算家・関孝和も取り組んだ難問。「ここで関孝和は一元高次方程式を使っていますね」などと、なんだか楽しそうだ。

 藤沢市から参加した無職武純也さん(74)は、「問題を解いていると、江戸の人たちはこんなことを考えていたのかと驚かされる。和算を学ぶことは、時代を知ることでもあると感じる」と話す。

 数学ブームのきっかけの一つとなったのは、数学者が主人公のベストセラー小説「博士の愛した数式」だ。同書に続き、数学関係の出版が活況を呈している。

 2004年9月に出版された「直観でわかる数学」(畑村洋太郎著)。昨年10月に刊行した続編と合わせて計13万部(21日現在)のベストセラーとなった。「5000部売れればと思っていたのですが。サラリーマンやOLにも好評です」と出版元の岩波書店も驚く。

 筑摩書房は昨年12月から「マス&サイエンス」と題し、毎月、古典的な数学や自然科学の書籍を文庫本で復刻し始めた。第1弾として刊行したのは「幾何学基礎論」など3冊。いずれも5000〜6000部の売り上げ目標をクリアした。

 日本名の数学のパズル「数独」も相変わらずの人気ぶり。玩具(がんぐ)会社「タカラトミー」が1月下旬に発売した携帯用の数独ゲーム機は、発売2か月で予想を上回る8万個を出荷した。

 趣味だけではなく、数学が実益につながるというデータもある。

 京都大経済研究所の西村和雄教授(経済学)が00〜01年、関東、関西の有名私立大学経済学部の卒業生約2000人を対象に調査を行った結果、数学を大学受験科目にした人は、受験していない人より年収が約50万円高く、有利な条件で転職する人も多いという傾向が浮かび上がった。


和算を楽しむ研究会のメンバー(神奈川県小田原市で)

 西村教授は、「『ゆとり教育』が浸透し、一時、数学は意味のない学問だという風潮が広がった。調査結果は、数学の実用性を証明した。数学が出来れば職業の選択肢が広がり、所得増につながるのだろう」と説明する。

 実益を狙っているわけでもないだろうが、日本数学協会(事務局・さいたま市)の会員も増えている。4年前に約350人でスタートしたが、5月末現在で約900人に。同協会副会長の岡部恒治・埼玉大教授(数理経済学)は、「普通の会社員や主婦の会員が増えているのがうれしい」と話す。

 なぜ今、数学なのか。

 「国家の品格」がベストセラーになった数学者・藤原正彦さん(62)は、「数学とは永遠の真理。真理のもつ力に多くの人が共感している」と語る。

 「三角形の内角の和は180度。100万年前でも、どんなにいびつな形でも180度。これほど美しい真理があるでしょうか」

 藤原さんは、「脳を鍛えたいという理由もあるでしょうが、市場原理主義が浸透し、社会全体が荒廃しているのも一因。今、数学は乾いた日本人の心に潤いを与えてくれる学問なのでは」と分析する。

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