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2006年02月27日(月) 01時33分

過剰な個人情報隠し…「匿名社会」座談会(上)読売新聞

 公益に関する情報が隠され、地域社会では命にかかわる情報さえ共有できない……。昨年4月の個人情報保護法の全面施行以降、法の趣旨をはき違えた過剰反応や情報の出し渋りが問題となっている。

 拡大する「匿名社会」の現状をどうとらえ、何をすべきか。ジャーナリストの江川紹子氏、法の制定に深くかかわった堀部政男氏、「安心社会」から「信頼社会」への移行を説く山岸俊男氏が語り合った。(司会は五阿弥宏安・東京本社社会部長)

 ——個人情報保護法の全面施行以後、個人情報であれば何でも提供してはいけない、という誤った考えが広がっている。身近で経験した過剰反応は。

 江川 障害を持った女性に「保護法のために仕事を失った」と聞いた。勤め先から営業先の名簿を預かって資料をそろえる在宅の仕事だったが、「名簿を外へ出して法に触れると言われると困るので」と言われたという。女性は職業倫理を持って働いており、流出などさせる訳がないが、契約社員ではだめだということだった。ひどい話だ。

 ——保護法のそもそもの目的は何か。

 堀部 個人情報の有用性に配慮しつつ個人の権利利益を守る、つまり、利用と保護のバランスを図るルールを定めようというものだ。国際的には日本は20年以上遅れており、保護法がないことは人権意識の低さの表れと見られていた。21世紀に入りようやく法律が出来たことが混乱を招いたと思う。もっと早い時期に、情報公開とセットで議論していれば、混乱も起こらなかったのではないか。

 ——利用と保護のバランスをとるのが法の目的なのに、保護だけに重点が置かれ、過剰反応が起きている。

 江川 耐震偽装事件の元建築士の聴聞内容を開示しないのは、あきれた官による情報隠しだ。「個人情報」というキーワードが現れる前は、「プライバシー」が理由にされた。例えば刑事裁判の確定記録は、元々は誰でも見られるとされていたが、プライバシーという考えから制限された。個人情報はさらに強烈なキーワードで、取材への支障を懸念してはいたが、ここまで人を思考停止にする力を持つとは思わなかった。

 山岸 過剰反応には三つの側面がある。一つは法を都合良く解釈し、役所が情報を隠そうとする動きで、弁解の余地はないと思う。二つ目は、法がよく理解出来ず情報を出さない「事なかれ主義」。もう一つは、実害がなくても、とにかく自分の情報を出したくないという傾向が国民の間で強まっていることだ。

 ——法律制定にかかわった立場から見て、現状はどう映るか。

 堀部 法の全面施行以降、「学校の緊急連絡網を作ってはだめなのか」など様々な質問が来るようになり、「過剰反応ですね」と答えている。法は保護と利用のバランスをとっているが、実際に一般の人が法律を読んで行動するかと言えばそうではない。現場では、法律より各省庁が作ったガイドライン(指針)や解説書に基づいて議論しがちで、木を見て森を見ない対応になりやすい。民間事業者が開催する研修会なども、影響が大きい。個人情報ビジネスがブームになるとは、予測しなかった。

 ——そうした個人情報ビジネスの場で、漏洩(ろうえい)の危険性や不安感があおられている面があるのか。

 堀部 かなり危機感をあおっている。これも過剰反応につながっている。

 江川 見知らぬ所からダイレクトメールが来たり、勧誘電話があったりというのはイヤなものだが、一向になくならない。ある時、「私の電話番号をなぜ知ったのか」と聞くと、「うちは保護法に基づいて名簿を買っておりますから」と言われた。法の趣旨を分かっていない。

 堀部 法の軽視、無視も多くみられる。この法律では、事業者への罰則は大臣の命令に従わなかったときに初めて下されるが、ヨーロッパに比べれば、はるかに軽い。個人情報を使ってもうけた方が得だと、抜け道を考える人もいる。

 江川 悪いヤツは取り締まれず、まともな人が生きにくくなっている。法律が何を目的としているか伝わらず、個人情報保護という言葉だけが独り歩きしている。

 ◆過剰反応などの実例◆

 【公務員、公益に関する情報】懲戒免職者や国家試験合格者、耐震偽装事件の元建築士への聴聞内容、省庁幹部の経歴、地方議員の連絡先などの匿名化や非開示。

 【生命、身体にかかわる情報】子どもの虐待情報が民生委員に伝わらない。独り暮らしの高齢者ら災害弱者の情報が自治会で共有できない。医療機関が、介護に必要な情報を福祉施設などに教えない。

 【学校で】緊急連絡網や卒業アルバムを廃止。校長や担任の住所も教えない。校内の展示作品から子どもの名前を消す。

 【地域で】表札が消え、国勢調査や社会調査への非協力が増加。

 【事件・事故】消防が出火場所の住所番地を明らかにしない。警視庁、道府県警のほぼ半数が、被害者を原則匿名扱い。

http://www.yomiuri.co.jp/feature/fe6000/news/20060226ic24.htm