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2006年01月25日(水) 00時00分

問われる市場の番人(上) 時間外取引や株式分割読売新聞

“ひずみ”見逃した行政

 ライブドアグループによる証券取引法違反事件は、法の精神を踏みにじるような“抜け穴”を見過ごしてきた金融庁や東京証券取引所など“市場の番人”の認識の甘さも、浮かび上がらせた。

 ライブドアが05年2月、ニッポン放送株を35%取得した際に使った「時間外取引」。

 大株主が突然現れて経営権を握るのを避けるため、義務付けられている株式公開買い付け(TOB)を逃れる手法ではないかとの見方が市場関係者に強かった。にもかかわらず、何の警告を発することもなく、当時の伊藤金融相が「(現行制度では)規制の対象とはならない」と“お墨付き”を与えてしまった。

 ライブドア事件で小道具となった「株式分割」の場合もそうだ。2001年の商法改正で、「株式分割後の1株あたり純資産額が5万円以上」などの規制が撤廃された。大幅分割が可能になったのは、株価は高いが、純資産額は十分でないベンチャー企業に株式分割を促し、個人投資家が買いやすくする証券市場活性化が狙いだ。

 ところが、分割で個人投資家の買い注文が殺到するのに、新株券が印刷されて株主の手元に届くまでは売れる株が品薄となり、株価が高騰しやすい。

 これに目を付けた新興企業は、本来の目的から離れて、株価を上昇させて時価総額を増やすために、株式分割を行うようになった。

 東証によると、商法改正後に10分割する企業は増え始め、ライブドア(当時エッジ)が04年2月に100分割する前に、ジャスダック上場の情報技術(IT)企業が21分割している。ライブドアの100分割後には、200分割する企業も出現した。

 個人投資家の間でも「株式分割が発表されれば、買い」は常識で、インターネットの株式関係の掲示板では「次はどこが株式分割するか」が話題となった。株式分割は本来の目的から逸脱し、市場にひずみを生じ始めていたのである。

 それでも、金融庁・証券取引等監視委員会は動こうとしない。つい1、2年前まで、大手銀行の不良債権問題で、あれだけ厳格な検査を行い、過剰とも言える引き当てを迫ったのとは対照的だ。

 東証が05年3月に5分割を超えるような大幅分割の自粛を求め、今年1月から株券が手元に届かなくても売買できるようにしてから、株式分割の穴はようやくふさがれた。なぜ金融庁・監視委はもっと早く手を打てなかったのか。

 そこに、規制緩和を進めることだけに注力し、その結果生じる様々なひずみからは目を背けてきた金融庁・監視委、東証などの不作為と「市場万能信仰」があったのではないか。それを是正しようともしなかった政治の責任も重大だ。

 結果として、損をしたのはライブドア株を買ってきた個人投資家だ。株取引の全面停止に追い込まれ、日本経済も世界から信認を失った。

 本来の目的を逸脱するようなケースが頻発した当時に、速やかに警告を発し手を打っていれば、ここまで深刻な証券スキャンダルは生まれなかったかも知れない。

 今求められているのは、“市場の番人”が自由な取引と同時に、公正な取引を確保することである。

 市場は必ずしも万能ではない。時には凶暴な牙をむくことがあることを忘れてはならない。

http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/mnews/20060125mh06.htm