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2004年08月19日(木) 00時00分

新たな手法 『商工ローン』問題再燃 東京新聞

 「こちら特報部」は4年前、中小企業向けの貸金業「商工ローン」による過酷な債権取り立ての実態を追跡した。報道による告発は刑事事件にまで発展。その後、いったん鳴りを潜めたかにみえたが、最近、再び苦情が増えている。取り立ても、かつての「目ん玉売れ!」といった脅迫まがいとは、趣を異にする司法を盾にした手法だ。急増する新たな「窮状」の実態を追った。 (浅井正智)

 「債務者は借受金三百万円を弁済することを約す。利息は年15%とする」

 神奈川県内の会社員佐藤勇二さん(59)=仮名=の自宅にこう書かれた書類が送られてきたのは、昨年十月のこと。その一カ月前、佐藤さんはおいが商工ローン大手「SFCG」(旧商工ファンド、本社・東京都)から三百万円を借りた際、連帯保証人になっていた。

 「契約内容が書いてあるから、確認の書類が送られてきたんだろう」。妻の和子さん(52)=仮名=はそんな程度に考えていた。

 この紙が途方もなく重い意味を持つことを知ったのは、ことし三月になってからだ。おいが返済に行き詰まり、佐藤さんにSFCGから差し押さえの予告通知が来た。弁護士に相談し、そこで初めて理解した。

 書類は「公正証書」だった。一般になじみは薄いが、公証人によって作られ、確定判決に等しい効力を持つ。裁判所に持ち込めば、数日のうちに強制執行の令状が下りる。主債務者が支払い不能に陥った場合、債権者(業者)はこの証書をもとに、連帯保証人の給与や財産を差し押さえる強制執行手続きが取れる。

 佐藤さんは驚いた。「契約のとき、公正証書を作るなんていう話はSFCG側から一切聞いていない。そもそも公正証書とは何なのかすら弁護士さんに教えられるまで知らなかった」

■元社員が明かす巧妙なカラクリ

 では、どうやってこの重要な文書が作られてしまったのか。本紙の取材に応じたSFCG元社員、清水昭雄氏(30)=仮名=は“カラクリ”をこう明かす。

 「連帯保証人契約に必要な書類は通常六−七種類で重ねてある。一番上が債務弁済契約書。二枚目に公正証書作成委任状を紛れ込ませる。書類はカーボン紙になっている。押印もSFCGの担当者が『押し忘れがないように』と印鑑を借り、自分で押してしまう。保証人に『公正証書作成委任状とは何か』と聞かれることもまれにあるが、『事故が起こったときに必要な書類です』と答える程度だ。担当者自身、十分理解していない場合が多い」

 商工ローンの取り立てといえば、その中の一社、日栄(現ロプロ、本社・京都府)が使っていた「目ん玉売れ、腎臓売って金返せ」という“脅し文句”が記憶に新しい。しかし、こうした強引な手法は社会問題化して以降、影を潜めた。

 それに代わって登場したのが、公正証書を利用した債権回収だ。「国家の裁判制度を利用した“司法テロ”とでもいうべき手法」と商工ローン問題に詳しい呉東正彦弁護士(横浜弁護士会)はまゆをひそめる。

 佐藤さん夫妻は差し押さえの強制執行停止という申し立てを起こし、裁判所に認められたため、間一髪、差し押さえを免れた。しかし、「公正証書を作られたことで爆弾を抱えたような状態」(呉東弁護士)であることに変わりはない。

■利息制限法では歯止めが利かず

 この「公正証書」問題とならんで、もう一つ顕著な問題は「利息」だ。苦情の多くは、利息制限法が定めた上限を大幅に超えた利息に基づいている。

 借金苦から二度自殺を図り、その後も入退院を繰り返し、先月死亡した神奈川県内の会社経営矢野大介さん(当時五十五歳)=仮名=のケースは典型例だ。

 矢野さんは一九九二年に商工ファンド(当時)から借り入れを始め、しつこい追い貸しもあって、七年後には借入金が二千七百万円以上に膨れあがった。

 ストレスで倒れた矢野さんに代わり、妹弟が残った債務千六百万円の支払いをした。だが、弁護士に相談すると、利息制限法の上限を超える金利をつけられ、妹弟の負担分がそのまま過払い分だったと分かった。

 自殺を図ったのはそれに気づいた後の二〇〇二年。からくりを知らず、肉親に迷惑をかけてしまった自責の念から、とみられる。

 利息制限法は百万円以上の借入金の場合、金利の上限を年15%と定めている。だが、別の法律である貸金業規制法四三条は、債務者が任意に支払うことなどを条件に出資法の上限である29・2%(現行)までの利息を認めている。法整備の欠陥ともいうべき、金利の二重構造が存在している。

 「任意」である限り、矢野さんは自らすすんで高い利息に合意していたことになる。実際はどうか。

■空欄小切手握り強制的な実態も

 本人が生前、過払い分の返還を求めた訴訟で、裁判所に出した陳述書がある。それによると、借り入れのたびに期日を空欄にした小切手を業者側に取られ、「いつ(決済に)回されるか分からないという不安の種になっていた」という。

 「来月五日に元本百万円分を小切手で決済する」と迫られ、「払わなければ不渡りを出してしまい(その結果、倒産し)仕事の苦労が水の泡になってしまう」と思い、「悪戦苦闘して決済資金を(肉親から借りて)用意するしかなかった」と、任意とは逆の強制的な実態を吐露している。

 ただ、債権者からみた「任意」はこれとは全く逆なようだ。前出の清水氏は「金を借りた人が返すのは当たり前。返すつもりがあって金を借りるのだから、どんな形の返済でも、任意性があるというのがSFCGの論理」と話す。「任意といっても借り手の立場は弱く、事実上強制されている」と茆原(ちはら)洋子弁護士(横浜弁護士会)は指摘する。

■「貸金業規制法43条の撤廃を」

 貸金業規制法は八三年に制定された法律だが、商工ローン側がこれを「武器」にしたのは近年の話だという。茆原弁護士によると、「以前はトラブルになっても利息制限法で計算した利息を払えば、商工ローン側も引き下がった。だが、二〇〇〇年夏ごろから、貸金業規制法四三条に基づき、利息制限法の規定を超える金利の正当性を主張するようになった」と語る。

 ことし二月、最高裁はSFCGの貸し付けには貸金業規制法の規定は適用されない、との判断を下した。「最高裁判決は画期的な意味を持つ。しかし、判決後も利息制限法を超える利息を取られている、という相談は後を絶たない。早急に規制法四三条を廃止し、制限法を超える金利の強制に罰則規定を設ける法改正をしなければ、被害は根絶できない」(茆原弁護士)

 再び頭をもたげてきた商工ローン問題。前出の清水氏はこう警鐘を鳴らす。

 「(業者側は)マスコミにたたかれて以後、対外的にはきれいに見せかけるようになった。しかし、決して非を認めない企業体質、なりふり構わぬ利益拡大路線は何も変わっていない」

 本紙は先月末、SFCGに取材を申し入れたが、広報担当者は「取材を受けるかどうかを含めて検討させてほしい」と答え、現在まで取材は実現していない。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040819/mng_____tokuho__000.shtml