悪のニュース記事

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2004年06月05日(土) 01時38分

6月5日付・編集手帳読売新聞

 名君で聞こえた岡山藩主、池田光政は父親がフキ畑で討ち死にしたので、生涯、フキを食べなかったという。儒者の熊沢蕃山(ばんざん)があるとき、光政に軽口をたたいた◆「殿は幸せでござる。もし先君が水田のご最期だったら、米を召し上がることは出来ますまい」。光政はうなずいただけで、笑わなかった。蕃山は心ない発言をしたことを悔い、わびたという◆語る人に悪気はなかろうとも、人の生き死にが気の利いた冗談になることはない。遺族の耳に届く言葉であればなおさらである。書誌学者の森銑三(せんぞう)氏が「偉人暦」(中公文庫)に書き留めた光政主従の挿話は、そのことを教えているだろう◆記者会見の井上喜一防災相も、気の利いた冗談を言ったつもりかも知れない。「元気な女性が多くなったということですかな」。長崎県佐世保市で小学六年生の女子児童が死亡した事件の感想を述べたなかで、そう語った◆小学生がカッターナイフで同級生を死なせた惨事の、どこを、どう押せば、「元気な女性」という言葉が出てくるのだろう。遺族はどう聞いたことか。人間の練れた名君の芳烈公でも、黙ってうなずきはしまい◆古人の歌にいわく、「世の中に とらおほかみは何ならず 人の口こそ猶(なお)まさりけれ」。怖いのは人の口だ、と。無邪気な軽口もときに、人の心を傷つける。

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20040604ig15.htm