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2003年12月31日(水) 01時40分

12月31日付・読売社説(1)読売新聞

 [HIV感染]「安全な輸血へ対策を前倒しせよ」

 血液事業の信頼性を、大きく揺るがす事態だ。

 エイズウイルス(HIV)に感染した人の血液が献血時の検査をすり抜け、この血液を輸血された患者が感染していた。専門家が「いつかは起きる」と懸念していたことが、現実となった。

 輸血には、わずかとはいえ、常に感染のリスクが付きまとう。日本赤十字社と厚生労働省は、検査精度の向上やチェック体制の見直しを進め、血液事業の安全確保に全力を尽くすべきだ。

 献血された血液は、肝炎ウイルスやHIVなどが混入していないか、二重の検査が行われてきた。だが、感染直後はウイルス量が少なく、検査をすり抜けてしまう。これが「ウインドー期間」だ。

 日赤は四年前、世界に先駆けて高精度検査を導入し、ウインドー期間を大幅に短縮した。それでも感染のリスクが消えたわけではなかった。

 高精度検査の導入後も、肝炎ウイルスのすり抜けが複数報告されている。検査に技術的な限界がある以上、当然、HIVのすり抜けも起き得る。

 欧州では、輸血用血液に薬剤を加えたり、紫外線を当てたりしてウイルスや細菌の感染力を奪う「不活化処理」の実用化が進んでいる。

 輸血用の血漿(けっしょう)を一定期間保管し、献血者の感染などが発覚した場合は、直ちに回収する体制も取られている。

 だが、日赤は“世界一安全な検査”を過信し、不活化処理や輸血用血漿の保管などの安全対策を講じてこなかった。厚生労働省も、こうした日赤の対応を放置してきた。

 今回の事態を受け、日赤は、不活化処理導入に向けた準備や、二〇〇五年秋までに輸血用血漿の保管制度を整備すること、などの再発防止策を公表した。

 もっと早く実施していれば、今回の感染被害を防げた可能性がある。日赤の怠慢と言えよう。再発防止策の実施を前倒しすべきだ。

 献血者のモラルも問われている。HIV感染の不安から検査目的で献血する人が増え、輸血感染のリスクを高めているとの指摘がある。献血時の身元確認の徹底は当然だろう。

 同時に、感染の不安を抱く人が、いつでも気軽に、保健所や医療機関で検査できる体制整備も急務だ。

 輸血は医療に不可欠だが、感染のリスクをゼロにはできない。輸血の安全性を高めるには、「必要最小限の使用」という原則を厳守することだ。出血の少ない手術や自分の血液を使う「自己血輸血」の普及も、さらに図る必要がある。

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20031230ig90.htm