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2003年12月30日(火) 01時35分

輸血でHIV感染「いつか起きる」が現実に読売新聞

 心配されていた事態が現実になった。日本赤十字社の高精度検査をすり抜けたエイズウイルス(HIV)混入血液による初めての感染被害。過去にもすり抜けが確認されていただけに、関係者からは、国や日赤の対応について「後手に回っている」との厳しい指摘も出た。一方、検査目的の献血者の存在も指摘されており、輸血相手の危険を顧みない行為に対する批判も高まりそうだ。

 東京・霞が関の厚生労働省では、29日午後4時過ぎから、緊急の血液事業部会が開催された。

 薬害被害者や学識者ら5人のメンバーを前に、田所憲治・日本赤十字社事業局技監は「いつかこういう事態が起きるのではないかと思っていたが、現実に起きて残念。深刻に受け止めております」と重々しい口調で述べた。

 これに対し、東京HIV訴訟原告団全国世話人の大平勝美さんは「いつか起きると予想していたにしては、対応が遅かったのではないか」と指摘。「(輸血によるHIV感染は)患者にとって大変な不安がつきまとい、大きな不幸だ。早急に具体的な方策を示してほしい」と訴えた。

 今回、患者に輸血された「新鮮凍結血漿(けっしょう)」は長期保存が可能で、初めはウイルス量が少なくて高精度検査をすり抜けたとしても、保存後に改めて詳しい検査をすれば感染を見つけることができた可能性がある。

 このため、日赤では再発防止策の一つとして同血漿を半年間保存することを打ち出しているが、実現は1年半後の2005年秋になるという。

 部会終了後、「なぜもっと早くできないのか」と記者から質問された日赤の白戸恒勝血液事業部長は、「献血量を確保しなければ、長期間血液をストックすることはできない。簡単に献血を増やすこともできないし」と困惑の表情を浮かべるばかりだった。

 ◆背景に感染者の献血増加◆

 輸血によるエイズウイルス(HIV)感染が起きた背景として、感染者が献血するケースの増加を指摘する声は少なくない。

 世界保健機関などによると、欧米などの先進国ではエイズ患者数が1993年から95年の間にピークを迎えたのに対し、日本では依然として増加傾向にある。年間の新規感染者数の変化をみても、日本では300人前後で推移していた90年代半ばから徐々に増え、2002年は614人と約2倍に達している。

 そうした中で、とりわけ関係者が頭を痛めているのが、検査目的とみられる献血者の急増だ。厚生労働省によると、献血時の検査でHIV陽性と判定されたケースは、87年には11件だった。これが97年は54件、昨年は82件と大幅に増えており、厚労省幹部は「検査代わりの献血が増えているのは明白」と指摘する。

 29日の血液事業部会でも、献血者側の姿勢を問題にする声が続出。薬害エイズ被害者の花井十伍さんは「感染の可能性がありながら検査目的で献血することが、いかに重大な結果をもたらす可能性があるかを考えるべきだ」と訴えた。

 ◆献血時の身元確認、来年夏から導入◆

 検査すり抜けによるHIV感染の再発防止策の一つとして発表した献血時の身元確認について、日本赤十字社は、来年夏までに東京など都市部を中心に試験的に導入、2005年度中に全国で実施することを決めた。

 具体的には、免許証やパスポートなどを提示してもらい、氏名や連絡先を申告内容と照合する。主婦やお年寄りなどの中には身分証を持たない人も少なくないことから、複数の書類を組み合わせるなど柔軟に対応する方針。国の研究班の最近の調査では、献血者の9割が、身分証の提示を求められても献血に協力すると回答している。

 日赤は、現在の技術ではすり抜けをゼロにできないことから、献血前の問診で、不特定多数と性交渉を持つなど危険性の高い行為が申告された場合は、献血を辞退してもらっている。しかし、実際には、申告がないまま検査で感染が判明したり、さらに氏名や連絡先に不備や虚偽があって連絡が取れなかったりするケースが後を絶たない。中には偽名を使い分けて献血を繰り返しているとみられる感染者もいたという。

 日赤は、こうした現状を踏まえ、本人確認は不可欠と判断した。

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20031229ic28.htm