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2003年12月23日(火) 00時00分

右翼ごっこエスカレート 征伐隊事件 東京新聞

 「征伐隊」グループによる銃撃・銃弾郵送事件で21日までに逮捕された11人はいずれも「刀剣友の会」の会員だ。機関誌などで国粋主義的な主張を展開していたものの、警察当局は「右翼団体」と認定していない。愛国主義組織や暴力団に所属していたメンバーもいなかった。右翼のまねゴトをしていた「素人」がテロに及ぶ背景と危うさは−。

 主犯とされる村上一郎容疑者はどんな人物なのか。付き合いがあった刀剣研究家の佐藤幸彦氏は「腰が低くて人当たりのいい単純な性格の人物。商売でも強引な手は使わなかった。こんな事件を起こすようには見えなかった」と振り返る。

 「十数年前、全国の刀剣商が集まる『大刀剣市』で初めて会った。『日本レジン』という看板を出していたので、『レジンといえば樹脂だろ。刀剣を売るのは珍しいね』と話しかけたら、『刀が好きで、町工場のおやじがこんなことを始めてしまいました』と照れくさそうに話していた」

 そんな村上容疑者が、刀剣愛好家仲間で注目されるようになるのは、日本刀の格付けと保存を進める財団法人「日本美術刀剣保存協会」幹部への批判だ。幹部が妻や子供、孫の名義で、刀剣の格付け審査に合格させたとされる件では「価格をつり上げるために仕組んだ」などと非難した。

 佐藤氏は「刀剣格付け審査の不正ばかりでなく、学芸員資格を無試験認定で合格した際の経歴詐称も告発した。幹部の不正を暴いた人物として業界内で名をはせた」と話す。業界関係者は「保存協会攻撃の際、協会幹部が抱える裁判の訴状も持っていた。幅広い情報のネットワークを持っていたようだ」と指摘する。

■日の丸鉢巻き姿 会報で自信満々

 半面、「刀剣商」としてこんな評判もある。「保存協会の悪口をさんざん言う一方で、保存協会お墨付きの刀剣を高く売るしたたかな商売をしていた」

 刀剣家の間で、村上容疑者の右翼的主張が知られるようになるのは「刀剣友の会」の会報からだ。前出の佐藤氏は「一昨年五月、尖閣諸島に上陸した村上容疑者が日の丸の鉢巻き姿で、日本刀を振りおろす写真などが会報で公開された。今までになかった自信満々の様子だった」と指摘する。

 佐藤氏は、この時以降、村上容疑者の活動がエスカレートし「今回の事件にたどり着いたのではないか」と推測する。

 なぜエスカレートしたのか、明確な答えは見いだしにくいが、前出の業界関係者は「刀剣展示即売会後に必ず開いてきた『村上を囲む食事会』で、意気投合できる仲間が増えたことで自己肥大化してしまったのかもしれない」と分析する。

■自称「赤報隊関係」警察は“同好会”

 「食事会は、村上容疑者の全国遊説のようなもので、集まった仲間の大将になったような快感に浸ってしまったのではないか。“大将”として“隊員”に訓示するうちに、自分の言葉や行動に酔ってしまった部分が大きいと思う」

 一連の事件で、村上容疑者ら「征伐隊」グループは「赤報隊の生き残り」を名乗るものの、捜査当局も右翼としては「“同好会”のようなグループ」としかみていない。街宣活動などの活動実体がなく「尖閣上陸で図に乗り、右翼のまねゴトが暴走したようだ」(警察幹部)との見解だ。

■人ではなく建物狙い反省を促す

 ほかのメンバーをみても、鹿野栄治容疑者は、葛飾区などで四つの美容院を経営している。外務審議官宅に不審物を置いたとして逮捕された田中成治容疑者は歯科医だったが、ロシアの飲食店経営に手を出して失敗し自己破産したという。どの容疑者も右翼としての本格的な活動歴は確認されていない。

 新右翼団体「一水会」の木村三浩代表は「村上容疑者が愛国的な人物だとは耳にしたことがあるが、右翼的にはまったく無名だ」と説明した上で、グループが犯行に至った経緯についてこう推測する。

 「刀は侍の象徴で独自の美学がある。北朝鮮の拉致事件やイラク問題など、政治のだらしなさにふつふつとした怒りを共有するうちに、日本の声なき声を代弁しようという気持ちになったのだろう。刑法に触れることは分かっているんだろうが、人物でなく建物を狙うことで相手に反省を促そうとしたのだろう」

■「精神的な飢餓感ストレス生む」

 さらに木村氏は日本刀が一本数百万円で取引される高価なものであることにも着目し、強調する。

 「戦前の貧しい人たちが右翼的行動に走るのとは違う。今回の犯行グループは美容院の経営者や歯科医といった豊かな人たち。物質的な豊かさの一方で精神的飢餓感が今の日本にまん延していることの証しだ。経済大国となりながら、政治的に背骨がない日本のブロイラー的な在り方が、ストレスを生み出したのでは」

 これに対し、右翼や暴力団の犯罪に詳しい評論家の猪野健治氏は、容疑者らの政治に対する不満より、身の回りの不満が、事件にたどり着く大きな要因だったのではないかとみる。

 「自分自身のまわりで、会社が倒産したり個人レベルの苦しみがある。そういう不満を、たまたま刀剣マニアの集まりの中で話し合ううちに、結束したのだろう。自らが直面するやっかいな問題を処理するより、天下国家を論じる方がよほど楽な場合がある。強烈なイデオロギーなんかないんだけれど、元気のいい会長に引っ張られ、気が大きくなり犯行につながったのではないか」

 その上で、「素人集団」がこの種の犯行を起こしたことについて「普段ノーマークの小集団からテロが突発的に起こされる。そういう人たちが出てきたのは極めて危険な兆候だ」と強調し、こう警告する。

「法的に間違っているのが分かっていて一般市民がこういう行動を起こしてしまった今回の事件の意味は大きい。今後、同じ思いを持った一般人の類似犯が次々起きてくるのではないか」


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20031223/mng_____tokuho__000.shtml