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2003年12月11日(木) 00時00分

“銃後”東京のテロ対策は? 東京新聞

 「自衛隊がイラクに行けば、東京の中心を攻撃する」。国際テロ組織アルカイダを名乗る組織が先月、次々と日本に警告を出した。自衛隊の派遣が決まり、テロへの懸念が広がっている。一方で、アルカイダが「主犯」として常に名前が挙がるが、その実態は不明だ。見えない敵にどう対処すればいいのか、首都圏の備えを検証した。

■在日米大使館前 大型の警備車両

 東京・赤坂の米国大使館前には十日から、車両による自爆テロを阻止するための大型の警備車両二台が置かれた。正門前にも訪問者をチェックする車両が新たに陣取り、自衛隊のイラク派遣決定を受け、警備は強化された。

 警察庁は三月のイラク戦争開戦から、全国で警備している米英大使館や米軍基地、空港、駅など約六百五十カ所の警戒を徹底するよう九日、あらためて全国の警察に通達した。同大使館の警備強化もその一環だ。

 対テロ訓練も各機関が実施している。政府は先月二十五日、「日本で起きるなら最も可能性が高い」(内閣官房危機管理担当)化学兵器テロを想定した図面訓練を川崎市で実施した。東京都は東京消防庁と合同で今月一日、天然痘ウイルスによるテロを想定した図上訓練を実施した。

 厚生労働省は、生物兵器として考えられる天然痘対策に、約二百五十万人分の天然痘ワクチンを備え、極秘管理している。四十七都道府県にも一部、配布し終えている。同省は「今年五月までに、天然痘患者が発生した場合の医療関係者のワクチン接種方法、患者の隔離方法、搬送先の病院の指定などについて実施計画を策定した」と話す。

 防衛庁は今年一月から隊員にこのワクチン接種を始めた。「PKOでゴラン高原に派遣された約七百人に対して接種した」(同庁広報)。イラクに派兵される自衛隊員も接種を受けることになりそうだ。

 テロ組織に対する資金面の締め付けも強化している。マネーロンダリングなどを監視する金融庁特定金融情報室は「9・11以降、中東テロ組織や個人の資金取引があった場合、国内金融機関に届け出るように指示した」と話す。

 「タリバンやアルカイダなどの資金源は薬物取引による収益と理解している。現時点で三百七十八の組織・個人を届け出対象に指定している。イスラム系の人は同じような氏名が多く、対象者と同名の人物の届け出が何度かある」

 人が集まる民間施設も、テロは人ごとではない。「(一九九五年の)地下鉄サリン事件以来、テロ対策の研究を重ねている」と話すのは東京ドームだ。内部に空気を送り込み、外より気圧をわずかに高くすることで屋根を押し上げているドームは密封空間の上、空気が絶えず循環する構造で生物・化学兵器テロにはそれが弱点になるからだ。

 入場者の手荷物検査にイラク戦開戦後からは、身体チェックを加えた。施設内での異常情報は、消防にも即時に通報される態勢という。「施設内の監視カメラは、一般の方の想像よりかなり多い」(広報)

 東京ディズニーランドなどを運営するオリエンタルランドは、二十四時間巡回と入場者の手荷物検査を実施。監視カメラを増設し、「園内に死角をつくらない」対策を講じている。一日に三万−六万人が訪れるJR東京駅前の丸ビルは、入居するオフィスへの出入りは厳重チェックされているものの「商業ゾーンは開放空間。出入りまで規制できない」(管理する三菱地所)のが実情で、対策も手探り状態だ。

 想定されるテロ攻撃について、イスラム原理主義に詳しい静岡県立大の宮田律・助教授は「9・11の実行犯には欧米留学者がいたように、イスラム原理主義者の中にはインテリもいることから、生物・化学兵器テロが懸念される」とみる。

 テロ対策に詳しい公共政策調査会の板橋功第一研究室長も「大規模な爆弾テロは協力者や準備がいる」と同意見だ。

 軍事評論家の神浦元彰氏は「爆弾テロだって、衛星利用測位システム(GPS)を利用すれば、貨物船で運んだ爆弾を日本近海に浮かべ、後で位置を確認して回収すれば国内に持ち込める。何が起こるか想像できない」との見方を示す。

 日本をテロの対象にするとの警告は数回あった。十月にアルカイダの指導者ウサマ・ビンラディン氏のものとされる音声テープが、カタールの衛星テレビ・アルジャジーラで放送された。先月にはアルカイダ系を名乗る組織から日本を名指しし、自衛隊が派遣されれば「われわれの攻撃は東京の心臓部に届くであろう」との電子メールがアラブ紙に届いた。その数日後、アルカイダ関係者という人物からも「自衛隊がイラクの土地を踏み次第、アルカイダは東京に深く侵入、攻撃する」との声明が届いた。

 だが、すぐにアルカイダと結びつける風潮に疑問の声も上がる。板橋室長は「ビンラディンとされる音声テープは本物の可能性はあるが、他の警告メールは届く数日前に、アルジャジーラが自衛隊問題で日本が揺れていることを伝えている。これを知った人物が勝手に送ったのでは」と動揺につけ込む便乗だとみる。

 神浦氏も「過去のアルカイダ声明は、信ぴょう性を持たせる工夫があり、メール一本という例はない。国名は挙げても、都市名を挙げたことはない。大きなテロを起こした時に予告したこともない」とアルカイダとの見方を否定する。

 板橋室長は「米国はアルカイダとした方が自国政策が進めやすいので言っている。すべてアルカイダと危機感をあおるのはどうか」と指摘した上で、テロ組織ネットワークを解説する。

■「インドネシア系組織の攻撃有力」

 「テロ組織の構造は四重構造とみている。中心はアフガニスタンで戦った経験を持ち国際的に展開でき、米国だけ狙うアルカイダ。その外側の層にアフガンで訓練を受け、各地の地場で活動する組織、その外側にはこれらの組織に教えを受けた組織、そのさらに外側に勝手に動く連中がいる。アルカイダはごく一部だ」

 ただ「国内でのテロの可能性は完全否定できない。攻撃するとしたら日本にコミュニティーもあり、協力者を得やすいインドネシアなどの組織だろう」と板橋室長は言う。神浦氏も「インドネシアのアルカイダ系組織などだ。日本赤軍支援組織がバックアップする可能性もある」と話す。宮田助教授も「既に日本国内に過激な考え方に共鳴するイスラム教徒がいたとしても不思議ではない」と話す。

 コストも含めテロ対策に必要な警戒レベルについて、神浦氏はこう話す。「テロ対策でどの程度の負担が必要かは、『国民がどの程度で安心できるか』が基準になる。生命保険と同じで、負担になりすぎない規模の備えは必要だ」


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20031211/mng_____tokuho__000.shtml