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2003年12月10日(水) 17時30分

米国の全入国者指紋・写真チェックシステム、年明けから稼働WIRED

 イギリス人ビジネスマンも、フランス人映画監督も、ドイツ人旅行者も、米国を訪れる際には、まもなく世界最大のバイオメトリクス・データベースに写真と指紋を登録しなければ入国できなくなる。

 来年1月5日(米国時間)には最初の設備が115ヵ所の空港に設置されることになっている。だが、ここまで実施が迫っているというのに、米連邦議会の一部の議員は計画の有効性とプライバシー保護について疑問を唱えている。

 『 http://www.dhs.gov/dhspublic/interapp/editorial/editorial_0333.xml US-VISIT』と呼ばれるこの壮大な計画は、種類がバラバラな入国管理データベースと紙ベースの各種ファイルの寄せ集めに代わるもので、米国を訪れるほぼ全員について、指紋のデジタルスキャンとデジタル写真撮影を義務付ける。

 US-VISITのシステムは、包括的な出入国管理プログラムの実施を求めた1996年の議会指令により開発された。入国管理当局は、このシステムがビザの不正使用やテロリストの入国、ビザ切れの不法滞在などの防止に役立つことを期待している。

 入国管理は簡単な仕事ではない。米国政府の記録によると、昨年だけで延べ2億人の外国人が米国の国境を越えている。

 US-VISITの計画では、入国者の名前と指紋が、テロリストや移民法違反者、連邦捜査当局が請求した捜査令状のリストと瞬時に照合される。入国管理の担当官はまた、外国人留学生や労働者を審査する際に中央データベースにアクセスできるようになる。

 米国土安全保障省は、新システムを導入することで、政府による入国者の身元確認と追跡が容易になると述べている。国土安全保障省は3月、旧米移民帰化局から入国管理業務を引き継いだ。

 国土安全保障省は「入国管理システムは全般的に、旧来の紙ベースによる管理を続けており、デジタル化が進んでいない」と述べている。US-VISITは、米国務省が拡大を図っている機械読み取り可能なビザと緊密に連携し、ビザの読み取り時にデジタル写真と指紋を記録した中央データベースを参照できるようになる予定だ。ビザの取得が免除されている国(ヨーロッパの多くの国など)は、来年10月までにパスポートにバイオメトリクス機能を組み込まなければならない。

 米国にあるすべての空港と通関、港にUS-VISITのシステムを導入し、バラバラなデータベースを1つにまとめるという、数年にまたがる数十億ドル規模の契約は、まだ承認されていないが、議員たちはすでにUS-VISITの詳細な調査を開始している。

 ジョゼフ・リーバーマン上院議員(民主党、コネティカット州選出)は4日、国土安全保障省はUS-VISITのプライバシーへの影響を報告書にまとめることを怠った点で連邦法に違反していると非難した。

 リーバーマン議員は国土安全保障省のトム・リッジ長官に宛てた文書の中で、個人情報の取得を伴う新技術を導入する場合、まず「プライバシーへの影響に関する評価」をまとめなければ、『2002年電子政府法』の違反にあたると述べている。同法はリーバーマン議員が起草したものだ。

 リーバーマン議員はさらに、「プライバシーへの影響に関する評価をまとめて報告することで、開発中の新技術はプライバシーを犠牲にするものではないという安心感を与えられるだろう」とも記している。

 US-VISITのプライバシーへの影響に関する評価は、国土安全保障省の最高プライバシー責任者、 http://www.wired.com/news/privacy/0,1848,59336,00.html ヌーラ・オコーナー・ケリー氏との緊密な共同作業のもとで現在も作成中だ。オコーナー・ケリー氏は、米国民のデータは取得していないという理由を挙げ、報告書の提出が遅いとする主張、さらには報告書が必要だとする主張に反論している。

 オコーナー・ケリー氏は、国土安全保障省は既存の設備を使用していると主張し、「第1段階に新技術は使われていない」と述べたうえで、計画全体の契約については2週間前に発表されたばかりだと指摘した。「今がちょうど、プライバシーへの影響に関する評価をまとめるべき時期だ」

 リーバーマン議員はオコーナー・ケリー氏の法解釈に異論を唱えている。

 リーバーマン議員の広報担当者は「条文化されている法律なので、彼らはこれに従うことが求められる」と話す。「人には個人情報に関するプライバシーを守る権利がある。国土安全保障省は重要だと考えていないのかもしれないが、米国民の大半は自分の情報が不正利用されることなど望んでいない」

 一方、トム・デイビス下院議員(共和党、バージニア州選出)も11月下旬、US-VISITのシステムが観光産業や国際貿易に悪影響を与えないかという質問書をリッジ長官に提出している。

 デイビス議員の http://tomdavis.house.gov/cgi-data/news/files/69.shtml 質問は、米会計検査院(GAO)による9月の報告書で示された懸念と同様の内容だった。GAOはUS-VISITを「リスクの高い試み」と批評し、現行の入国管理システムが抱える問題点と複数のデータベースを統合することの難しさ、予算超過の可能性を指摘した。

 国土安全保障省は、US-VISITの契約に対する入札がまだ行なわれていないという理由から、計画にかかる費用の見積りは公表できないと述べた。US-VISITは、毎年ペタバイト(100万ギガバイト)単位のデータが収集できることになっている。

 議会は2004年度予算のうち33億ドルをUS-VISITに割り当てた。

 入国者の権利を擁護する団体やバイオメトリクスの専門家も、US-VISIT計画に対する危惧を表明している。『米国移民法センター』が記した政府の内部事情に関する http://www.nilc.org/immlawpolicy/misc/INS%20data%20accuracy.pdf 報告書(PDFファイル)では、入国者データの最大11%が不正確とされている。

 また、複数のバイオメトリクス専門家は、指紋のスキャン技術はこれほどの大役を務められるレベルに達していないため、犯罪者やテロリストと誤認される人が出てくるだろうと懸念している。

 民主主義と技術のためのセンター(CDT)の副責任者、アリ・シュウォーツ氏によると、US-VISITの開発者はセキュリティーに集中しすぎているため、議会はすでに詳細な調査を始めているという。

 「プライバシーとセキュリティー、セキュリティーと利便性を天秤にかけたがる傾向がある」とシュウォーツ氏。「あらかじめ計画を立てておけば、これら3つを共存させられる。だが、セキュリティーに的を絞ってしまうと、プライバシーは後で付け足し、それから何か便利なものを作ろうとする状況ができ上がる。当然ながら、結果的には不便なものが完成する」

 シュウォーツ氏は、US-VISITがプライバシーに及ぼす影響を評価するよう求める意見を支持する。

 「たとえプライバシーを守ろうとする人がいたとしても、事前に計画を立てておかなければ、何百万ドルもの予算超過を生じる可能性が高い」とシュウォーツ氏は語った。

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