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2003年12月08日(月) 00時00分

「自分だったら」考えて ハンセン病回復者の作家訴え信濃毎日新聞

 熊本県で起きたハンセン病元患者の宿泊拒否問題は、地域社会になお残る差別と偏見の重さを浮き彫りにした。ハンセン病回復者で作家の伊波(いは)敏男さん(60)=上田市=は、国や自治体の啓発活動が十分だったか—を問いかけるとともに、長野県でも「県民一人ひとりが『もし自分だったらどうなのか』ととらえてほしい」と訴えている。

 一九九六年まで九十年に及んだ国の強制隔離政策の誤りと責任を認めたハンセン病国家賠償請求訴訟で、国が二〇〇一年五月に控訴を断念してから二年半がたつ。

 熊本県は、国賠訴訟で最初に原告勝訴判決が出た地。県は全国に先駆けて人権啓発に取り組んできた。伊波さんは「ハンセン病の情報量が密な熊本でこの問題が起きたのは、九十年かけてつくられた社会意識を乗り越えるために、もっと国も国民一人ひとりもエネルギーを出せ、と求められたのだ」と受け止める。

 訴訟を機に高まった社会の関心は、長野県内でも次第に薄れている。県保健予防課によると、今年六月の「ハンセン病を正しく理解する週間」でさえ、ハンセン病の講演会や学習会は、県、市町村ともにゼロだった。

 伊波さんは国の隔離政策の下、十四歳で沖縄県の国立ハンセン病療養所に入所。鹿児島、岡山の療養所を経て、回復者としてこの問題に発言し続けてきた。「偏見は国家によってつくられたが、国や自治体は控訴断念以降、その責任にふさわしい啓もうをしてきたのか」と疑問を投げ掛ける。

 「啓発で『正しい』ことを語っても、相手の胸にはなかなか届かない。相手が自分の問題として胸に重ねるまで、伝える側が情熱をもって、息長く繰り返すことが大切だ」とも話す。

 現在、東京や群馬など六つのハンセン病療養所に県出身の四十二人が暮らしている。平均年齢は七十九歳。

 伊波さんは「本来は大手を振って故郷に戻れるはずなのに、療養所をついの住みかに選んだ。これは本人たちの問題でなく、迎える側の県民の問題だ」。三日、千曲市内で開かれた養護学校教職員に対する人権研修で、「療養所にいる人が一人残らず長野県に戻ってくるまで活動していく」と語った。

http://www.shinmai.co.jp/news/2003/12/08/012.htm