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2003年12月08日(月) 17時07分

おぼれた男児救おうと…偽名で暮らす中国人男性、水死朝日新聞

 埼玉県戸田市の笹目川で11月16日、おぼれていた男児(9)を救おうとして中国人男性(44)が川に飛び込み、水死した。男性は近くのマンションに偽名で暮らしていた。近所付きあいもほとんどなかったが、異国で命を落とした男性を弔う花束は日ごとに増えている。7日の告別式には、同じマンションに住む人たちなど約120人が参列した。

 事故は16日午後7時ごろ、JR北戸田駅に近い戸田市美女木東(びじょぎひがし)1丁目の笹目川で起きた。

 蕨署の調べでは、川沿いの遊歩道を、中国人男性と妻(38)が2歳の長男を連れて歩いていると、おぼれた男児の助けを呼ぶ声が聞こえた。

 男性は上着と靴を脱ぎ捨てて1.2メートルのフェンスを乗り越え、草地の斜面を駆け下り、川に入った。その途中でおぼれ、水深2.5メートルの川底へと沈んだ。

 「神様助けて」。フェンスにしがみついて泣き叫ぶ妻の声。男児は間もなく近所の人や通りがかりの男性に救助された。約30分後、どす黒く濁った水中から、レスキュー隊員が男性を引き揚げたが、すでに意識はなかった。

 事故直後、同署は所持していた診察券を基に身元を「郭辰雨さん 40歳」と公表したが、その後、その名での入国記録がなかったことが分かった。事情を聴く署員に妻の口は重く、夫の職業も「分からない」と答えた。後に妻が口にした名を基に、中国大使館が身元を調べた。

 同署などによると、男性は44歳で、85年ごろに就学生として来日し、いったん帰国。その後は入国記録がなく、同署は不法入国とみている。

 一家は工場やマンションが立ち並ぶ一角にある9階建ての分譲マンションに暮らしていた。所有者が転勤で貸し出すことになり、01年7月に仲介業者を介して入居したという。

 十数万円の家賃と家族3人の生活費を稼ぎ出した男性の職業は、いまも分からない。マンションの管理人は「池袋で店をやっていると聞いたことはあるが、詳しいことは知らない」という。

 7日午後、火葬場で妻はひつぎにすがりつき、「やめてー」と泣き叫んだ。同じマンションの女性(39)は「ご夫婦は、生まれ変わっても一緒になろうね、と話し合っていたと聞きました」と無念さを隠さなかった。

 男性は市に住民登録をしておらず、一家の存在は行政機関にも知られていなかった。市の担当者は「本名を隠したい事情があったのでしょう」と推測する。

 現場では今も、花束に向かって男性の冥福を祈る人の姿がある。近所の男性(62)は「不法滞在がばれるかもしれなかったのに……。勇気のある人だったんだろう」と手を合わせた。(12/08 17:05)

http://www.asahi.com/national/update/1208/024.html