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2003年12月07日(日) 00時00分

横浜・中田市長の青少年保護強化策に賛否 東京新聞

 コンビニ店でのわいせつ雑誌の販売規制と、子どもを深夜外出させた親への罰則強化による青少年保護策を、中田宏・横浜市長が打ち出した。低年齢化する犯罪の防止や子に無関心の親たちへの警鐘が狙いだという。首都圏サミットでも、条例の規制強化に向け検討が始まった。だが、この対策の効果に疑問の声が出ている上に、行政が道徳問題にまで首を突っ込むことに違和感も指摘されている。 (横浜支局・金杉貴雄、原昌志)

 「一つは業界、一つは家庭。それぞれ本来の責任が、一向に果たされていない。その責任を明確にする」。中田市長は二つの提案の「狙い」をこう説明する。

 わいせつな有害図書販売への規制は、コンビニ店で売る場合、壁を作って完全に仕切った売り場以外では売らせない。レンタルビデオ店では、成人向けコーナーを店奥の別室に設けている。コンビニ店でも同様の売り方を求める。現行の条例でも「仕切り板で仕切る」と決められているが、「守られていないし、守ったとしても、たかだか十センチの仕切り。意味がない」と業界の取り組みを批判する。

 「出版、販売を禁じるつもりは全くない。買う自由も妨げないので、出版業界の売り上げも減らない。ただ、場をわきまえてほしいだけ。レンタルビデオ店は自主規制している。コンビニもしっかり取り組んで、と言っている」とコンビニ店も公共の場との認知も広まり、社会的責任が求められていると主張する。

 だが、店舗の改装にかかる費用を考えると、断念するコンビニ店が続出することが予想され、事実上の「わいせつ本追放令」になる可能性が高い。

 大手コンビニチェーンのある店舗経営者(46)は「一般誌はたまにしか売れないが、エッチな月刊誌は十冊あってもすぐ売れる」と、その商品力を証言。「レンタルビデオ店みたいにと言われても、スペースと費用が問題」と困惑する。

 出版側からは悲鳴が上がる。ある出版社ではこの種の雑誌の七、八割はコンビニ販売という。

 営業担当者は「販売できなくなれば大きく影響する。インターネットを放置して物販だけ問題にするのか」と嘆く。出版労連の青山賢治中央執行委員は「現行のゾーニング(区切り)で十分。出版や表現の自由を考え、業界の自主規制にまかせるべきだ」と納得しない。

■「表現の自由にかかわる問題」

 東京大の奥平康弘名誉教授(憲法学)は「有害図書類は、薬物と違い『悪』ではない。ハードルを設けても見たい人に見せられればいいが、事実上販売をやめろということなら、行政がなすべき線を超えている」と疑問視。「営業の自由を媒介に表現の自由にかかわる」と法的な問題にもなると言う。

 神奈川県青少年保護育成条例 有害図書類は「著しく性的感情を刺激したり、残虐性があると認められるもの」とされ、18歳未満への販売が禁止。コンビニなどの販売では仕切り板などで区分陳列することが既に定められている。違反は30万円以下の罰金。中田市長は完全に隔離した区分陳列による販売を求める。

 もう一つの提案である、青少年の深夜外出を許した保護者に罰則を設ける考えは、「親たるものの責任を分かってもらうため」だと中田市長は言う。

 「携帯電話で連絡つけば自由、なんていうのは責任を果たしていない。補導されても警察に『朝までよろしく』という親までいる。冗談じゃない。警察は無料ホテルじゃない」と憤る。

■「保護料徴収し親わからせる」

 罰金など刑罰にこだわっているわけではないが、ペナルティーの意味合いは持たせるという。「駐車違反だってレッカー代と保管料をとる。子どもを保護したら、少なくとも移動料、保護料ぐらいは徴収しないと無責任な親は分からない」

 「ほかがやらなければ横浜だけでやる」と中田市長は息巻くが、先月十三日に開かれた首都圏サミット「八都県市首脳会議」で提案され、この提案を基に条例強化に向け検討を進めることを決めた。

 こうした規制や罰則が実際に犯罪を抑止したり、子どもたちを保護する効果があるのか。

 「ゾーニングは必要」と言うのは、東京都立大の宮台真司助教授(社会学)だ。ただし「親が見せたくないものを見せないことができる、子どもが見たくないものを見ないことができる、誰もが持つ『幸福を追求する権利』のため」と犯罪抑止とは別の目的のためと指摘する。

 少年非行抑止効果については「性的表現から遠ざけられると逆に未成年の性犯罪が増えるのは、各国統計で明らか」。日本では一九八〇−九〇年代にかけ、雑誌の性的表現は二−三倍増となったが、少年の性犯罪は半減したという。「性表現から隔離すると、偶然の刺激で暴発しやすくなる。狙いとは逆に非行が増える危険性すらある」と警鐘を鳴らす。

■自覚促す効果に賛成する意見も

 親への罰則については、PTA団体のある女性職員は「保護者を罰すれば青少年問題がなくなるのか」と懐疑的だ。「居場所のない子どもたちをどうするかを考える方が先」と批判する。

 「全国少年補導員協会」の富永一法事務局長のように「遊び歩く子どもに無関心で、『どこへでも入れてくれ』という親さえいた。見放されれば、子どもは立ち直れない」と親の自覚を強く促すべきだと賛成する意見もある。だが、生活信条や道徳問題に、行政が条例など公的規制をかけてくる点には、さらに疑問の声が上がっている。

 前出の宮台助教授は「中田市長は、法律と道徳の問題を混同している」と指摘する。「道徳を法律で追求できるなら、親孝行していない人を罰する条例もできる」と語り、「近代法ではあり得ない」と一蹴(いっしゅう)する。

 東京工業大大学院の今田高俊教授(社会学)も「『子どもだから深夜外出してはいけない』という道徳的な理由では規制は難しい。それでは『おやじ狩りに遭うので大人も外出してはいけない』と言われるかもしれない」と疑問視する。

■石原都知事は「法的規制困難」

 同サミットで提案を受けた石原慎太郎都知事も翌日の記者会見で「意気込みとしては分かるが、人権やプライバシー問題ともかかわってくる」と法的な規制は困難との考え方を示した。

 この点について中田市長は「家庭で自分たちのルールを決めるべきものなのは百も承知」と認める。それでも踏み込むのは「家庭が家庭として自覚できていない」からだ。「責任を考えない人にどう分かってもらうか。議論が起こること自体が狙いでもある。家庭や地域の子育て力をどう高めるか考えてほしい、と言いたい」と問いかける。

 宮台助教授は、この論議に忘れられている点をこう話す。「居場所のない子どもたちにとって、深夜のクラブなどは『感情の安全』を保つ場所になっている。『子どもを守るため』と言うが、子どもに与える影響を検討しないまま議論が進められるのであればでたらめだ」

■神奈川県青少年保護育成条例

 有害図書類は「著しく性的感情を刺激したり、残虐性があると認められるもの」とされ、18歳未満への販売が禁止。コンビニなどの販売では仕切り板などで区分陳列することが既に定められている。違反は30万円以下の罰金。中田市長は完全に隔離した区分陳列による販売を求める。
 深夜外出制限は「保護者は深夜(午後11時−午前4時)に青少年を外出させないように努めなければならない」と規定。第三者が連れ出した場合、20万円以下の罰金になるが保護者に罰則はない。同市長は保護者にも何らかのペナルティーを科すことを求める。同県では、昨年、深夜外出で補導された青少年は3万4645人。10年前の2・5倍。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20031207/mng_____tokuho__000.shtml