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2003年11月24日(月) 00時00分

柔整師 療養費水増し後絶たず 財政難…健保組合は悲鳴 東京新聞

 年金とともに将来の財源確保が危ぶまれている国民健康保険など各医療保険をめぐり、依然続いている“無駄遣い”がある。一部の柔道整復師の施術にかかわる療養費の水増し請求などの問題だ。昨年の国会でも論議となり、厚生労働省が調査に乗り出したが、その実態は−。 (星野 恵一)

■『頚部・左肩関節・腰部捻挫』←腰もんだだけ

 都内に住む二十代の男性会社員のもとに、ある文書が届いたのは今年の九月下旬だった。書面は東京社会保険事務所長名で、題は「健康保険療養費(柔道整復師の施術)の支給申請について(照会)」とあった。文面はこうだ。

 「健康保険療養費に関する保険給付の充実と適正化を図ることを目的とし、必要に応じて負傷原因等の照会を実施しております。下記の柔道整復師の施術に関する療養費の請求内容に疑義が生じました。覚えている範囲で…ご回答いただきますよう…」

 男性が、都内の整骨院にかかったかどうか、その際の施術を問う内容だ。

 その文書上では、男性は今年七月に計六日間、「頚部捻挫(けいぶねんざ)」や「左肩関節捻挫」「腰部捻挫」で、同整骨院にかかったことになっている。だが、男性は前の月の六月に同整骨院で腰をもんでもらったことはあったが、六日間もかかっておらず、病名もでたらめだった。

 東京都保険事務局の担当者が、「一般論」として話す。「整骨院の施術に疑問がある場合は、それが分かった段階で調査を始め、患者に文書で問い合わせることがある」。整骨院が男性に施していない施術を行ったように装い、健康保険の療養費を水増し請求した疑いがあるということだ。

 かつて、妻と自分の名を利用され、療養費を不正請求された経験のある埼玉県川口市内の町田裕氏(49)が話す。「患者は、療養費の制度を知らず、自分の名を利用されているかどうかさえ分からない。今のチェック体制ではないのと同じではないか。私が柔整師だったら同じことをする」

 町田氏が不正請求に気づいたのは、加入している保険組合からの指摘だった。「妻がかかった柔整師が保険組合に請求した書面では、実際に通った前後一カ月分、多く通ったことになっていた。しかも、私はかかったこともないのに保険証に名前が使われた。詐欺行為だ」。妻が実際に通った日数は三十七日だが、四十七日に水増しされた。町田氏の分も三十一日分、架空請求されていた、という。

■勝手にサイン・同姓の印鑑

 柔整師が健康保険組合などに療養費を請求する場合、患者が委任したことを示すため、書面にサインすることになっている。だが、町田氏は「妻も私も了解していないのに、勝手にサインを書き入れ、同姓の印鑑が押されていた。患者が知らないことを逆手にとっている」。

 「柔整師の療養費の水増しは古くて新しい問題」

 こう話すのは全国の五百事業所の従業員と扶養者を含め約三万八千人が加入している東京都金属プレス工業健保組合の幹部だ。会計検査院が一九九三年に療養費の水増し請求などの問題を厚労省に指摘してから、すでに十年がたつ。

 申請をチェックし整復師に療養費を支払う側である健保幹部は「受領委任制度を抜本的に変えないとダメだ」と指摘する。

■認められるのは骨折や打撲など

 受領委任制度は複雑だ。

 接骨院は医療保険機関ではないが、一部の施術については保険が適用される。患者が保険者(健康保険組合など)に申請し、認められれば、二、三割の自己負担分で施術を受けられ、残りの施術料を健保組合側が療養費として負担する形だ。健保組合側が申請内容を審査している。

 本来、この申請は患者自らが行うのが原則だが、便宜上、柔整師については、療養費の受領を患者から委任された形にする「受領委任」の制度が認められている。実態としては、柔整師が健保組合に施術内容を記載して申請し、患者負担分以外の施術料を療養費として請求している。

 療養費が認められるのは骨折や捻挫、打撲で、整復師にかかった場合で、冒頭紹介した男性のように、単なる腰痛や肩こりでかかった場合には支払われず、請求もできないはずだ。

 「受領委任の制度が逆手に取られている」。先の健保幹部は町田氏に同調して実態を話す。「施術内容を偽って申請したり、療養日数を実際より多く申請したりして、療養費が水増し請求されることも多い」

 昨年度決算で過去最悪の四千億円強の赤字を計上し、財政難に苦しむ健康保険組合連合会(約千七百組合加入)は「柔整師自身の自制、自律が必要。保険請求が適正かどうかの観点できっちり見ていく必要がある。例えば肩がこったものを保険で請求するのは認められない」と話す。

 厚労省では、柔整師の水増し請求などの統計をとっておらず、暦年の増減比較ができないが、昨年から公表を始めた柔道整復師の行政処分をみると、不正請求が原因で詐欺罪に問われ懲役刑を言い渡されたケースが三件、受領委任の資格を取り消されたり、業務停止とされたりしたケースは十件に及んだ。

■少ない審査委員 組合対応に限界

 同省担当者は「会計検査院の指摘などを受け、受領委任の契約方法の見直しなどの改正を行ってきたが、療養費の適正化は引き続き重要な課題」と話す。昨年の国会でも水増し請求問題が取り上げられており、依然として改善されないのが現状だ。

■『一部の不正で全体が…迷惑千万だ』

 さて、柔整師側は問題をどうとらえているか。

 柔整師の多くが加入するある柔整師の団体幹部は、そもそも受領委託が認められた点について「(手続きの煩雑さを省く意味で)制度は患者のためにある」と指摘し、「会として療養費の請求が適正に行われるよう指導している。不正をするのは一部の人」と強調する。その上で、「一つの不正で業界全体が悪く見られてしまう。柔整師は今は過当競争で厳しい時代で、まじめにやっている人にとっては迷惑千万。不正で(業界に対する)いろいろな規制もかかってくる」。

 審査体制の限界もあるようだ。現在、健保組合側は都道府県単位で、それぞれ審査会を設け柔整師の申請について審査している。厚労省には「療養費は本来、健保組合の裁量で認めるもので、健保組合側で調査してもらうより仕方がない」との原則論がある。

 ただ、「国保だけでも月七、八万件の(療養費の)申請がある」(東京社会保険事務局)のに対し、審査会の委員の数は十人前後というところが多い。「申請書とカルテを突き合わせても、判断がつきにくい場合もある」(同)とも話す。

 先の健保幹部が繰り返し指摘する。「以前から制度の改善を国に要望しているが何も変わらない。厚労省が腰を上げないと組合で不正を減らそうにも限界がある」。町田氏は嘆く。

 「最近かかった複数の整骨院も、健保組合を通じて請求書を調べたら不正請求された疑いがあった。自らのケースでこれだけ度重なると、どこでもやってるのではないかと、やはり思ってしまう」


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20031124/mng_____tokuho__001.shtml