悪のニュース記事

悪のニュース記事では、消費者問題、宗教問題、ネット事件に関する記事を収集しています。関連するニュースを見つけた方は、登録してください。

また、記事に対するコメントや追加情報を投稿することが出来ます。

記事登録
2003年11月22日(土) 00時35分

法科大学院:「質の高さ」問われる 「自前の体制」で明暗毎日新聞


 来春の法科大学院開設で文部科学相の諮問機関「大学設置・学校法人審議会」が21日に示した判断は、大阪大が保留とされるなど有名大学にも容赦はなかった。質の高い法律家養成の体制が十分かどうかで明暗を分けたが、怒りの会見を開く不認可校もあった。一方、認可校もスタートラインに立ったに過ぎず、今後、熾烈(しれつ)な競争にさらされる。国公私立を問わず“生みの苦しみ”が続く。【伊藤正志、横井信洋、森本英彦】

 ◇難しかった教員確保

 今年の司法試験の出身大学別合格者数で第9位(32人)の大阪大でさえ、認可が先送りされた。「国立大でうちだけ保留とは……。ショックです」。法科大学院設置委員会委員長の吉本健一教授は落胆を隠せなかった。

 教員は憲法、民法、刑法など主要7科目に最低1人の専任が必要だが、大阪大が刑事訴訟法の専任教員に申請した助教授(34)は「教育経験が足りず不適格」と判断された。大阪大は緊急会議を招集し、他大学から教員を探すことを決めた。すでに確保の見通しがついたといい、12月10日までに申請し直す。審査を通れば来年1月下旬に認可されるが、入試は1カ月遅れ、2月末にずれ込む。

 教員審査の厳しさは予想されていた。審議会は8月に1度目の審査をしたが「不適格」「保留」が続出した。有名大の学長経験者でも「近年の業績なし」を理由に落とされた。教員不足に陥った約20校は人選をやり直し、10月に再申請した。

 しかし大阪大は、この助教授に大きな論文や留学経験があるので審査をクリアできると判断した。吉本教授は「見通しが甘かった」と悔やんだ。

 答申は認可した66校についても、23校に「教員の補充が必要」、7校に「高齢の専任教員が多く、早期に対応すること」という趣旨の留意事項を付けた。

 ◇嫌われた予備校

 「これはいったい、どういうことか」「申請書には、うそを書いているのか」。9月以降の審査で、審議会の委員らは龍谷大と青森大の担当者に厳しい質問を浴びせた。龍谷大は伊藤塾、青森大は辰已法律研究所との提携をホームページ(HP)などで宣伝していたが、審議会に提出した申請書には一切書かれていなかった。委員の一人は「受験生向けに派手に宣伝しておきながら、申請書に何も書かないのはやましい部分があるからと見られても仕方がない。強い不信感を持った」と話す。

 結局、両大ともに不認可となった。文部科学省は「教育の主体が大学か予備校かはっきりしない、と審議会に判断された」と話す。

 これに対し、21日夕に同省内で会見した龍谷大の河村能夫副学長は「『予備校性悪説』のもとに不可とされるのは理解できない。罪を犯しそうだから、という理由で逮捕するようなものだ」と不満をぶちまけた。龍谷大側によると、6月の申請段階では、伊藤塾との提携を申請書に記載する必要はないと文科省側の理解を得ていたという。

 伊藤塾の伊藤真塾長は「龍谷大が主体的につくる法科大学院の理念に賛同し、要請の範囲内で協力する予定だったが、答申は事実を誤認している。志望する学生や市民の声を全く無視しており、大きく失望した」との談話を出した。また、辰已法律研究所の後藤守男所長は「夜間専門という特色ある学校が1年目に認可されなかったことは極めて残念」とコメントした。

 大学関係者によると、認可校の中にも予備校を「外部機関」として利用するところがあるという。HPなどでの宣伝が目立った両校が“犠牲”になったとの見方もある。

 ◇合格者数で淘汰?

 定員が多く、優秀な学生を集めるとみられる東京大や早稲田大、慶応大など現行試験の上位校が、06年の新司法試験でも合格者をほぼ独占する見通し——。大学受験予備校の河合塾はそんな試算結果をまとめている。

 新司法試験の合格者は10年には3000人程度になるとみられるが、今回、認可された66校の定員は5430人。さらに1人3回までの受験が認められ、毎年の受験者数が各年の定員を大きく超えそうだ。法科大学院を卒業しても法曹界に進めない人が相当数出る可能性は高い。

 「合格者が1割に満たない学校は、立ち枯れするのではないか」(法務省関係者)と淘汰(とうた)を予測する声の一方で、「合格率が高いグループに入らなくても、税理士や地方公務員などに優秀な人材を送りこむような教育ができれば、生き残りは模索できるはず」と指摘する関係者もいる。新大学院をめぐる試行錯誤は始まったばかりだ。

 ◇日本弁護士連合会の椛嶋(かばしま)裕之・法曹養成対策室長の話 教員審査の具体的基準が明らかにされず、各大学が申請した後になってから示されたことで、結果的に多くの教員候補者が不適格となった点は手続き面で問題があった。また、設置基準では専任教員には「高度の教育上の指導能力」を求めていながら、実際には研究実績に偏った審査基準となっており、今後に課題を残した。

 ◇法科大学院問題に詳しい木村晋介弁護士の話 72校の認可申請自体、多い気がしていた。淘汰(とうた)されるところも出てくるはずで、入学希望者が志願校を選ぶ際、本当に質の高い教育を受けられるか戸惑うことになるだろう。また、各校ごとに新司法試験の合格率を競う中で、受験技術教育の傾向が強まることも予想されるが、予備校と提携した2校を不認可にしたのは、そうした点に対する強い危ぐの表明と考えられる。

[毎日新聞11月22日] ( 2003-11-22-00:35 )


http://www.mainichi.co.jp/news/flash/shakai/20031122k0000m040137001c.html