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2003年11月19日(水) 01時30分

視聴率買収:日テレ調査委員会報告書の要旨毎日新聞


 日本テレビの安藤正臣プロデューサーによる視聴率買収工作問題で、調査委員会が18日に公表した調査報告書の要旨は次の通り。

 <背景>

 プロデューサーは91年11月から制作の現場に携わるようになったが、視聴率により番組制作能力が評価され、人事評価にも反映されざるを得ない視聴率重視の空気が日本テレビを含む業界に存在していた。

 プロデューサーは、番組で選んだモニターを集計して、ビデオリサーチ社とは違う独自の視聴率を算出して番組の演出に用いるなど、視聴率を上げることのみならず、視聴率の仕組みそのものに強い関心を示していたことが推察される。

 「視聴率のこだわりは意欲的だった」「面白い、面白くないを視聴率で決める人。毎分の視聴率をあんなに大事にする人は見たことがない」など多数の証言がある。

 プロデューサーはこうした積極姿勢の半面、視聴率は民間会社1社のデータに過ぎず、さほど神聖なものではないとの認識を持っていたと供述している。

 また、現場で同僚らと「モニター機械のある家に行ってお願いすれば視聴率は上がるんじゃないか」と冗談めかして話したことがあったとも述べている。

 プロデューサーは97年10月から日曜ゴールデンタイムのレギュラー番組を担当し、意欲を燃やしたが、平均視聴率は9%台に低迷し、98年3月に番組が打ち切られた。その後は年末年始などのスペシャル番組を担当していたが、局幹部によると、レギュラーを担当しないのは二線級との評価で、プロデューサーは企画書を上司に大量に提出し、レギュラー番組を持ちたがっていた。

 また、同僚などに対して「俺は番組がこけたら終わりだ。俺は主流じゃない。視聴率15%を取らないともう駄目だ」などと不安を漏らしており、立場を失う焦りやプレッシャーを抱えていたとみられる。

 <動機>

 安藤プロデューサーは「視聴率を取れば優秀なディレクター、プロデューサーと言われ、会社から評価されるので、自分としては『視聴率さえ上げれば何をやってもいい』という感覚があった。また、きれいごとを言わずに視聴率重視を唱える社長の姿勢にも感銘を受けていた。視聴率といってもそんなに神聖なものではなく、しょせんは民間会社1社による調査データに過ぎないと思っていた。同僚らと『モニター機械のある家に行ってお願いすれば視聴率は上がるんじゃないか』などと冗談めかして話したこともあり、調査会社に頼んで視聴率調査世帯を探してもらえれば20軒くらいすぐに見つかるだろうし、その世帯に依頼すれば簡単にOKして自分の指定する番組を見てもらえるだろうと考え、視聴率工作を思い立った」などと供述している。

 資料の分析検討や関係者からの聞き取り調査の結果、また安藤プロデューサー本人の供述とその背景事情を併せ見ると、本件視聴率操作は、編成局における自己の立場と評価に強い危機感を覚えていた安藤プロデューサーが、視聴率獲得を重視する会社の方針を自己の都合のよいように取り違え、視聴率獲得のためには何をやってもよいとの独断の下に、番組制作費などの水増しなどにより工作資金をねん出し敢行したものであり、会社内における自己の評価を高めるためになした行為と考えられる。

 <視聴率操作工作>

 本件視聴率操作は、安藤プロデューサーが調査会社に視聴率調査の対象世帯の割り出しを依頼、その結果に基づいて交渉役を派遣し、番組の視聴を依頼したものであり、安藤プロデューサー本人も直接電話をし、番組の視聴を依頼していた。視聴を承諾した世帯には商品券を交付するなどしていた。

 また、これらの費用は、当初は安藤プロデューサー本人が負担していたが、その後本人が担当する番組の制作費を制作プロダクションなどに水増し請求するなどしてねん出していたほか、架空請求で関与者に直接日本テレビから支払わせたものもある。

 視聴率操作の工作と水増し・架空請求が行われたのは00年3月から03年7月までで、関与したのは本人のほか、調査会社2社の3人、水増し請求の受け皿などになった制作会社など7社7人、交渉役4人が明らかとなった(延べ人数)。

 調査会社への依頼などで安藤プロデューサー本人が一時支払った費用が合わせて320万円。日本テレビに対する水増し及び架空請求は14件で、水増し及び架空分の総額が1007万6585円。視聴率操作の工作に使われた費用が総額875万2584円。さらに、安藤プロデューサーへのキックバック(これには本人が一時支払った費用の払い戻しも含まれる)合計が415万円であることが、調査の結果判明した。

 結果的に安藤プロデューサーには95万円の利得が残っており、引き続き視聴率操作を続けたかった旨の供述も得られている。

 このほか、安藤プロデューサーは、今年9月30日付請求書による新たな水増し請求を行ったが、本件調査により発覚、未遂のままに終わった。

 <視聴率操作の影響>

 安藤プロデューサーが交渉役らを介して十数世帯に対し指定する番組の視聴を交渉し、承諾を得た世帯は合計6世帯だったと認められる。また、ビデオリサーチ社が公表したところによると、この6世帯のうち、視聴率調査対象世帯は3世帯のみであるとのことで、本件工作が視聴率調査に影響を及ぼした世帯数は最大でも3世帯にとどまるものとみられる。

 安藤プロデューサーは、指定した個別の番組の視聴を承諾した世帯は6世帯のうち最少で1世帯、最多で4世帯であったと供述しており、これを事実とすれば、承諾した世帯が最多の4世帯で、その中に視聴率調査対象である3世帯がすべて含まれていた場合においても、視聴率調査に影響を及ぼした世帯数は最大3世帯(番組全時間視聴の場合最大0・5%)であったこととなる。

 同様に、承諾した世帯が最少の1世帯で、これが視聴率調査対象の世帯に含まれないというケースも存在した可能性があることとなり、その場合、視聴率調査に影響を及ぼした世帯数はゼロであったことになる。

 なお、承諾した世帯が実際に視聴したかどうかについては不明である。

 本件視聴率操作の対象となった番組としては、日本テレビ7番組のほか、他局6番組の合計13番組であったことが判明している。

 <役員・社員の関与>

 安藤プロデューサー以外の日本テレビ役員・社員の関与の有無については65人に及ぶ関係者から複数回にわたり聞き取り調査を実施したが、安藤プロデューサー以外の日本テレビ役員・社員の名前は全く出なかったこと、本件背景事情と動機も安藤プロデューサーが単独で本件視聴率操作を敢行してきたことを裏付けること、日本テレビ全社員を対象とした緊急質問調査によっても、日本テレビ内部で本件視聴率操作に関与・協力した者の存在をうかがわせるに足る形跡は見当たらなかったこと、安藤プロデューサーは一貫して「日本テレビの他の役員・社員の関与はない」と述べていることなどの事実があり、当委員会が調査したところを総合しても、安藤プロデューサー以外の日本テレビ役員・社員が本件視聴率操作に関与したとは認められなかった。

 <法的問題点>

 本件視聴率操作が視聴率調査会社の業務に対する犯罪を構成する可能性はあるものの、視聴率操作行為自体を直接に処罰する規定はない。番組制作費等の架空・水増し支払いについては詐欺罪を構成する可能性があると思料され、民事法上は、会社が安藤プロデューサーに対して損害賠償権を有することとなる。

 <日本テレビへの提言>

 安藤プロデューサーに対しては、会社の就業規則、従来の不正行為についての前例などを参考にして、厳正な処分がなされるべきである。会社は今回の不正行為が基本的には、ビデオリサーチ社1社のみによる視聴率を唯一の基準としているテレビ業界の極めて不完全な現実を当然のものとして受け入れていた点に最大の原因が存在していることを真しに反省し、この点について十分な検討と対策を考慮しないままに人事管理を行っていたことが安藤プロデューサーの行為の引き金になっていること、一方において、制作現場における資金の使途についての管理が十分でなく、これを厳格にすることは困難であるというこの業界の悪しき常識を安易に肯定していたことなどが原因である点に責任を痛感すべきである。今後これらの点を是正すべく、業界に働きかけるはもとより、自社内部においてもより客観的かつ不可侵的な視聴傾向把握のための制度を導入するようにすべきであり、さらに人事管理の一層の適正化を進めるとともに、経済界の常識に従って、コーポレートガバナンス(企業統治)の観点からコンプライアンス(法令順守)体制、とりわけ厳格な内部統制システムの確立に努めるべきである。

[毎日新聞11月19日] ( 2003-11-19-01:30 )


http://www.mainichi.co.jp/news/flash/shakai/20031119k0000m040133001c.html