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吉野弘さんに、「ヒューマン・スペース論」という題名の詩がある。「バスの運転手が／運転台に着くと／バスの運転手は／四角なバスである」と、詩は始まる◆運転手は彼の内部に客を乗せて走るのだと詩人はいう。「内部に配慮をみなぎらせ／外部への目覚めた皮膚をもち／荷電体のように走る／彼」。わが身の内部に客を乗せた運転手にとっては乗客一人ひとりが、自分の体の大切な一部のように感じられることだろう◆乗客を乗せたバスが東名高速道路を三百メートルもバックで逆走する。その運転手を含む三人が過去に運転免許を失効し、一時無免許で乗務していたことが明るみに出る。ＪＲ東海バスで不祥事が続いた◆と、過去形で語る間もなく今度は、親会社の新幹線だという。運転士が乗務中、携帯電話ですれ違う列車の写真などを撮っては知人の女性に送信していた。わが身に客を乗せるどころか、客だけに許される浮かれた旅気分に運転士が浸っているのでは話にならない◆新幹線は運転が自動化されているとはいえ、万が一、万々が一の大惨事を引き起こさないために規律はある。内部への配慮はたるみ、外部への皮膚は眠っていたらしい◆「他人の運命を／君自身の運命と感じるように」…。逆走運転手や携帯運転士には、吉野さんの詩の後段にある一節を贈りたい。