2003年11月16日(日) 00時00分

子どもを守るサービス人気、福岡市の会社車道側に立ち子どもの手首をしっかり握って、自宅に送る女性スタッフ＝福岡市内で（朝日新聞・）

連れ去り事件防げ／学校・塾 行き帰りを送迎

　登下校や塾の行き帰りに、子どもを警護する送迎サービスが福岡市で人気を集めている。市内のベビーシッター会社が始めたところ、いつも問いあわせが絶えない。子どもを狙った連れ去り事件が増え、共働きや転勤族で近所に知り合いの少ない家庭からの依頼が多い。新しい形の「安全ビジネス」の現場を見た。

　「こんにちは。お迎えに上がりました」

　午後５時過ぎ、福岡市内の保育園に、元小学校教諭の浜竹裕美さん（３９）が６歳の女児を迎えに来た。顔写真入りのＩＤカードを示すと、保育士は「お母さんから聞いています」。

　浜竹さんは同市東区の警備会社「マードレ」のスタッフ。自身も２歳の娘を持つ母親だ。首に警報用の笛をかけ、ポケットに防犯ベル、かばんには護身用の制汗スプレー。女児の手首をつかんで車道側を歩く。「幼い子の手は握ってもするりと抜けやすい。子供を引っ張られないためです」

　人目の少ない路地などは避ける。約２０分で自宅に着くと、ベルを鳴らしてから注意深く玄関を開けた。「空き巣がいるかも知れない」

知人が少なく

　女児の母親（３８）はパート勤め。父親（３４）が今春、熊本に単身赴任し、２人暮らしだ。母親は帰宅が午後９時になることもある。「転勤族で近くに友人も親類もいない。職場の仲間には送り迎えは頼めないし……」と母親は話す。今年５月、福岡市で小学生が男にガソリンをかけられ、火をつけられる事件が起きた直後から利用している。

　マードレには１００人を超える登録スタッフがいる。子育てに一段落した女性や元教員らが多い。元々はベビーシッター会社で、小学校教諭だった古田稔社長（４３）が８９年に教員仲間２人と設立し、ＪＲやハウステンボスで企業内保育を手掛けた。利用者の多くから「子どもの送り迎えも」と求められ、子どもの身辺警護を思いついたという。公安委員会の認定を受け、９８年に開業した。古田社長は「子ども専門の警備会社はおそらく全国初めてでは」。

２００世帯が契約

　約２００世帯が契約しており、１日２０人以上を送迎している。基本料金は１時間１２００円。３時間以上から利用できる。最高２億円の保険金を掛けている。

　口コミで知られるようになり、７月に長崎市で園児殺害事件が起きた直後は、３台の電話が鳴りやまなかった。古田社長は「こういうニーズがある社会もどうかとの思いもある。しかし現実に事件が起きている」。

　福岡市中央区のベビーシッター会社「マーマ福岡」も３年前、小学生の送迎サービスを始めた。お迎え料金は５００円。山村順子代表は「送迎で利益は出ない。利用しやすくするには行政や地域の支援が必要」と指摘する。

　警察庁によると、略取誘拐事件の被害者は昨年１年間に２５１人。今年８月末現在では１４４人、うち１２歳以下は６７人で、女児が４８人を占める。歩行中の児童を強引に車内へ連れ込む手口が増えているという。

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危険を身近に感じる親増加

　常磐大人間科学部の諸沢英道教授（被害者学）の話　最近の連れ去り事件の加害者は「思いつき型」。周到な準備を重ねるのではなく、性的嗜好（しこう）などが抑えられず衝動的に実行している傾向がある。こうしたビジネスが注目されるのは危険を身近に感じる親が増えてきたことの現れと言える。

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■■■■■子どもが狙われた最近の事件（年齢は事件当時）■■■■■

　５月　　福岡市南区で登校中の小５男児（１０）が無職男（４４）に火を付けられ、大やけどを負う。

　６月　　大阪市西成区で男（５２）が保育園の男児（４）を「せんべいを食うか？」などと誘い、自転車に乗せる。

　７月　　長崎市で中１の男子生徒（１２）が幼稚園の男児（４）を誘拐して殺害。

　　　　　 静岡県焼津市で無職の男（５２）が小５女児を「ぬいぐるみ、いっぱいあるよ」と誘って連れ去る。女児は自力脱出。

　９月　　大阪府茨木市のマンション敷地で、男が下校中の小２女児（７）に「お母ちゃんが病院で待っているからこっちへおいで」と声を掛ける。女児は防犯ベルを鳴らして逃げ、無事。

　　　　　 福島県須賀川市で無職男（５５）が通学途中の小６女児（１１）の腹を殴り、車に押し込む。約３３時間監禁された。

１０月　　三重県桑名市で会社員の男（２３）がそろばん塾から帰宅途中の小３女児（８）を車に押し込めて連れ去る。女児は脱出。


（11/16）

http://mytown.asahi.com/fukuoka/news01.asp?kiji=5523