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2003年11月14日(金) 08時33分

昭和大医学部教授が論文複数捏造 架空症例や虚偽データ朝日新聞

 昭和大学医学部(東京都品川区)脳神経外科の阿部琢巳教授(43)が、架空の症例や事実と異なるデータを入れた論文を作成し、国内外の学会誌に発表していたことが13日、わかった。虚偽の内容が含まれる発表論文は、95〜01年の間に少なくとも5本に上る。教授は昨年5月に講師から教授に就任したばかり。「論文が採用されやすいようにデータを変えた。教授選を前に負けたくない、という意識もあった」と話している。

 関係者や本人によると、架空症例を載せた論文は2本ある。

 1本は日本脳神経外科学会の97年11月号の学会誌(NMC)に発表された「段階的経蝶(ちょう)形骨洞的下垂体腫瘍(しゅよう)摘出術」に関する論文。器具を鼻から蝶形骨洞と呼ばれる副鼻腔(ふくびくう)に通して腫瘍を段階的に取り除く、当時としては先端的な手術について、7人のデータを紹介した。

 だが実際には、うち1人は実在しない女性で、この女性は3回にわたって手術を受けたとする架空の症例だった。また61歳の女性患者は、実際には1回しか手術をしていないのに2回手術したことにして症例数を水増ししていた。

 教授は「論文の審査官から『症例数を増やせないか』と言われたため、架空症例を記載したと思う」と説明する。

 2本目は「脳神経外科ジャーナル」01年5月号に載った論文で、腫瘍を超音波で吸引する器具を使った症例を紹介している。実際は3例しか該当患者がいないにもかかわらず、4例に手術した、と記載した。教授もこの事実を認めている。

 事実と異なるデータの入った論文は3本。01年6月号の別の医学誌に掲載された論文は、鼻の付け根奥の骨の底から髄液が漏れないようにセラミックのプレートでふたをする再建手術について書いた。だが15症例のうち19歳の女性に行った手術では、髄液の漏れが防げず2回も手術をし直したにもかかわらず、「髄液漏を併発した例もない」などと記載、「安全で有用な手術機材である」と結論づけている。

 教授はこのプレートの開発にかかわっており、品質に直接かかわる虚偽記載になる。

 このほか96年に海外の雑誌に投稿した論文では、46歳の女性患者について、「ホスピスで死亡」と書いたが、実際には昭和大病院の一般病棟で、院内感染による敗血症で死亡していた。95年10月の論文では、大脳動脈瘤(りゅう)破裂の38歳男性について、カルテに「左動眼神経麻痺(まひ)が残ったまま退院」とあるのに「神経損傷なく退院」と記載した。

 阿部教授は85年に昭和大を卒業。約2年間、ドイツに留学し、97年に帰国。講師をしていた。今は脳神経外科で教える傍ら、昭和大学病院で外来診療もしている。

 教授の行為について、ある脳神経外科医は「架空の症例は論外。新しい術式や器具について発表するのにデータを捏造(ねつぞう)していては、信頼性の根幹にかかわる。手術成績がいいというようにアピールしたかったのだろう」とみる。

 脳神経外科の教授選は、約半年に及ぶ事前運動期間を経て昨年5月に実施された。11人が立候補し、論文の数や面接などを通じて決められた。阿部教授は当時、講師で、約10歳上の助教授を飛び越えての当選だった。第一筆者(中心となる執筆者)の論文本数は、11人の中で一番多かった。

      ◇

 <教授選> 教授の退官に伴い、後任の教授を選ぶ選挙。一般的に、候補者は公募され、論文のコピーや研究業績リストなどの資料を提出する。学内の選考委員会が書類選考を経て数人の候補者に絞った後、面接などを経て、全教授の決選投票で決まる。一度教授に選ばれれば、定年まで務められる。医局のトップである教授の権限は大きく、学内や関連病院の人事権や、研究費の采配(さいはい)権を握る。そのため、対立候補から中傷する怪文書が出回るほど熾烈(しれつ)な選挙戦となることも多い。(11/14 08:32)

http://www.asahi.com/national/update/1114/009.html