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2003年11月09日(日) 00時00分

働く警察官は損!? 増員より『やる気喪失』対策 東京新聞

 犯罪増加に対し、警察官の増員を求める声が大きくなっている。今日投票を迎えた総選挙でも、いくつかの党はマニフェストに治安対策として増員を盛り込んだ。だが、警察が本来やるべき捜査や法的手続きをやらず、放置するネグレクト(仕事の放棄)が、現場の「常識」になっている。警察官を増やす前に、警察はやるべきことがあるのでは−。

 「そんなのは日常茶飯事だったよ」。こう話すのは首都圏のある県警OBだ。

 「今は被害者の救済措置などでうるさくなってきたから、事件処理は前とは少しは違うだろうが、数年前までは(小さい事件を受理しないのは)当たり前だった。被害者も『事件はどうなった』なんて言ってこなかったからね」

 警察は被害などの届け出や告訴などを受けると、捜査や調書の作成、検察庁への身柄や書類の送致処理などをする。ところが実態は違うらしい。

■机に隠したまま異動で忘れられ

 この県警OBは「殺人、強姦(ごうかん)、全治数カ月といった傷害など、特異事案については当然、検察庁に送るが、泥棒など一つぐらいじゃ、まず届けを取らない。あるいは届け出を受けたとしても(捜査しなくてはならなくなる)受理番号を取らない。こうして地検に送らない」と話す。

 さらに“裏技”として「『マルサン』というのだが、参考の受理番号というのを取って、実際には送検しないというケースも多い。マルサンの場合、その担当者しか知らないから、本人が異動してしまうと、当然、ないものになる。マルサンを机に隠している人は結構いるはずだ」とあきれた手口を説明する。

■「未処理の事故何件あるか…」 

 ある警視庁OBも「軽微な内容の未処理案件は、捨てるに捨てられず、実は転勤のたびに、持ち歩いている。後任にも見せない。署内の事件処理簿にも載せていない場合は、その事件を受けた警察官がいなくなったら、事件の当事者以外、だれも知る人はいなくなる。当て逃げ事故の未処理案件なんて何件あるか分からない」と“白状”する。要するに事件や事故をなかったことにして、やるべき捜査をしていないのだ。

 県警OBは「告訴も同じ。告訴を受理すると必ず書類を送付しなければならず、仕事が増える。面倒くさいから『告訴は被害者に立証責任があるんだ』なんて言って、なるべく受理しない」と打ち明ける。だが捜査してくれていると思っている被害者から、問い合わせがあることも。

■仕事くるの恐れ本署に報告せず

 「自分がある署の刑事一課長の時に、傷害事件で被害者から『事件はどうなったんだ』とねじ込まれたことがあった。交番(地域課)で届け出を受けて、こちらに上げてこなかった事件だった。当時、こっちは殺人事件を抱えていて忙しかった。そうなると、自分たち(地域課)にお鉢が回ってくるもんだから、うやむやにしていたケースだった」

 なぜ、やるべき捜査をやらないのか。この県警OBは三つの理由を挙げた。

 「検挙率を上げるため、捜査能力が足りないため、小さな事件をいくらやっても金にならないためだ」

 「検挙率は、事件を認知し、書類を送検してしまうと発生件数という分母が増え、検挙率は当然下がる。発生件数を少なくすることで、検挙率を上げるというトリックだ。捜査能力については、若い警察官は大学を出て能力はあるんだろうが、サラリーマン化して、勉強をしない。書類を作るのが面倒くさいから被疑者を捕まえないという警官までいる」と言う。

■県の捜査協力費 大事件しか出ず

 金の問題は「大きな事件、つまり窃盗なら広域や多額窃盗、あるいは外国人犯罪や警備事件などは、国や県から捜査協力費が出る。それをプールして署幹部の交際費や署の飲み会や慰安旅行などの費用に回す」と実態を話す。

 前出の警視庁OBも「告訴事件は送致しないとならない。例えば被疑者が札幌に住む被害額五万円の詐欺事件だと、被疑者の調書作成に最低でも二人で札幌出張は必要」と金にならない軽微な事件を挙げ、だから「『道警に告訴した方がいい』とアドバイスして、告訴を受けない」と言う。

 揚げ句に「刑事上がりの幹部の中には、『ゴミ(小さい事件)なんてやるな』と露骨に言う人もいる」(前出の県警OB)。

 だが一九九九年に埼玉県桶川市で起きた桶川女子大生ストーカー殺人や、二〇〇〇年の名古屋市の中学生五千万円恐喝事件など、適切な捜査をしなかったことで深刻な犯罪を招いた。

 警察白書によると、一昨年の刑法犯の認知件数は二百七十三万五千六百十二件で戦後最高を記録。検挙人数は過去十年間で最高の三十二万五千二百九十二人だったが、検挙率は19・8%と戦後初めて20%を割った。「猫の死体や粗大ごみ処分など本来自治体がやる業務まで回ってくる」(警視庁OB)事情はある。人手不足も指摘される。

 そこで叫ばれだしたのが、警察官の増員だ。警察庁は昨年度から五年間で二万人の増員を掲げる。総選挙でも「増員し三年で『空き交番ゼロ』」(自民)、「四年で三万人以上増員」(民主)、「三年で一万人増」(公明)などをマニフェストに盛り込んでいる。

■総務、管理暇なのに捜査現場は忙殺

 元警視庁警察官でジャーナリストの黒木昭雄氏は「政治家は無責任だと思う。巨大組織の警視庁の中でも、総務・管理部門のように暇な部署と、毎日事件に追われている捜査現場など同じ組織でも忙しさはバラバラだ。こうした“惨状”を現場の若い警察官は知っているからやる気をなくす。現在の組織構造を精査して、現場の若い警察官が生きがいを感じられるような見直しをしないと何万人も増やしても無駄」と断言する。

 警察組織に詳しいジャーナリストの大谷昭宏氏も「民主党は千六百億円かけ警察官を三万人増やし、検挙率を五年前水準の84%にするというが、どうしたらそうなるのか。増員すればいいというのはおかしい」と安易な増員を批判する。

 警察庁は今年八月発表した「緊急治安対策プログラム」の中で、これまでの重要犯罪重視から「犯罪を抑止することに主眼をおいた取り組みが必要」として、交番勤務員の増員や街頭活動の強化などを打ち出している。小さな事件もこまめに対応する重要性を、再認識した。

 大谷氏はこれを受け、こう提案する。「治安の良い悪いを肌で感じる体感治安の良さを市民が実感すれば、治安は維持できる。それにはひったくりなどの小さな事件を見逃さないことだ。警察内部の事件無視を減らし、組織をきちっと立て直せば現行の約二十四万人の警察官でも日本の治安はなんとか維持できる。ニューヨークのように、ビルの窓が割られたらすぐ直すというような、小さな犯罪の要因をなくす努力を始めることが、むしろ治安維持の近道」


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20031109/mng_____tokuho__000.shtml