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京都は八坂神社のほとり、円山公園の一角に、高さ三メートルほどの塔が建っている。うららかな土曜日、修学旅行で訪れたらしい中学生が数人、台座に腰かけて談笑していた◆ＮＨＫ京都放送局が開局した一九三二年（昭和七年）、ラジオ普及のために設置された「ラジオ塔」である。朝の体操に、野球中継に、人々は折に触れて塔を囲み、放送を楽しんだらしい。当時のにぎわいを示す写真が飾られていた◆聴取率、広告費ともここ数年、ラジオの退潮が続いている。かつては深夜放送を聴いた若年層でもインターネットや携帯電話の登場以来、ラジオ離れが目立つという。塔に背を向けて語らう若い人の姿は何やら象徴的でもあった◆魅力のある言葉を通してラジオの存在感を高めようと、全国百一社の民放ラジオ局が足並みをそろえ、「コトバのチカラ」キャンペーンを始めた◆好きな言葉、心を動かされた歌詞などを広く募り、紹介していくという。耳をすます動作を忘れつつある現代社会のなかで、「コトバのチカラ」が実を結ぶ日を待ちたい◆「ふるさとの冬は寂しい せめてラジオ聞かせたい」（詞・曲、窪田聡「母さんの歌」）…。騒々しいだけのテレビの前から退散して、ひとり、ラジオをつけることがある。誰にともなく、「せめてラジオ聞かせたい」と思う夜がある。