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2003年11月02日(日) 00時00分

適性検査 大学生就職難でブーム 自分がどんな職業に興味あるか調べてもらう!? 東京新聞

 職業は自分の意志で探す。当たり前の話だ。ところが最近の就職戦線では、この常識が崩れつつあるらしい。適性検査などと呼ばれる業者のテストが「こんな職種についたら」といってくれるようだ。この検査を採用したり推奨する企業、大学も多い。さて「自分の意志で探さない」就職事情を探ると。

 ■『希望と違ったら どうしよう』 

 東京・神田駿河台にある明治大学リバティタワーは先月二十五日、土曜日だというのに数千人の学生で各教室とも満員だった。「自己分析のための『就職適性診断・能力検査』」を受けるため集まった同大学の学生たちだ。

 「受けて当然という雰囲気なんです。学内の学期末試験よりはるかに人が多かった。就職課の説明会でも『こうした検査を採り入れている企業が多いので受けるように』って」。テストを受けた明大三年の女子学生(21)が明かす。

 さらに「普通の学力試験のほかに『異性と話すのは得意か苦手か』『初対面の人と話すのは楽しいか、つらいか』なんて問題を答えるテストをやった。職種別の適性度や、本当はどんな職業に興味があるのかなどが分かる結果が返ってくるはず。希望職種と違ってたらどうしよう。でも自分がどんな職業に興味があるか、テストで調べてもらうって変ですよね」とも。

 今年春、似たような適性試験を受けた千葉県の私立大三年の女子学生(20)は「一位が販売関係で二位が犬のトリマー、後は秘書、旅行添乗員、受付という順位でおすすめ職種が分かった。証券アナリストや農業、自営業などはおすすめできないと出ちゃった」と話しながら続ける。

 ■「現実を見ろ」で就職率増狙う?

 「大学から『キミが興味がある職業が分かるよ』といわれて受けた。本当は空港職員希望です。でも、おすすめを出されると『実は自分はこんな職種に興味があったのか』なんて思って動揺した。まあ、友達とは結果を見せ合って大笑いしてますけど」

 都内の私大を卒業し、来年から地方公務員になるという男性(23)は「三年で適性検査を受けた。『目立ちたがり屋で自己顕示欲が強い』と書いてあった。客観的データで指摘されるから気になった。職業選びを迷っている友達は多かった。そんな連中の中には『おれはこの職業に向いていたのか』なんて感動しているやつもいた」と話す。

 ただ「検査を勧める大学側の本音は『理想を求めないで、現実を見ろ』じゃないかな。推薦職種を見せて就職可能な分野を目指すよう妥協させれば、就職率も上がるという理屈だろう」と大学の姿勢に批判的だ。

 明大四年の男子学生(25)は「就職相談に行くと『自分を見つめなさい』とか『自己分析しなさい』がキーワードになっている。だから自分探しのために『適性検査を受けろ』と。ちょっと気持ち悪い」と感想を漏らす。

 同時に「自分の場合、性格が『内向的』という結果が出た。何でこんなテストで人間性まで問われなければならないのか。『自分の性格では社会に出られない』と悩んで留年した友達もいる。これからは全部ウソを書くようにする」と怒る。

 ■業者側『やりがい探しに活用を』

 就職難が続く中で登場した適性検査ブームに、学生は困惑気味だ。さて検査を実施する業者側は。

 適性検査をグループとして扱っている業界最大手のリクルートは「企業向けにSPI、学生向けにR−CAPという適性検査をしている。SPIは受験者の能力、性格を調べ職種との適合性を見る。R−CAPは、学生がどんな職種に向いているのかを探す道しるべ的位置付け。SPIは全国五千九百社で導入されている」と説明する。

 その上で「R−CAPだと、特定の職種に『向いている』『向いていない』の表現は避けている。データだけで、自分の行方を決めてしまうのでなく、やりがい探しという気持ちで有効活用してほしい」と解説する。だが−。

 適性検査を導入している明治大学就職課の堀川英昭課長は「就職予備選考試験をやっている流れで、一九九七年から年に約五千人が受験している」と認めた上で「人生を考えるべき大学時代に『よい人材をより早く』の企業論理が侵入していることが問題だ。就職活動を正常化するため、企業側と話し合う必要性も考えざるを得ない」と苦しい実情を明かす。

 ■「自分探しは自分でやって」

 早稲田大学で就職指導を担当するキャリアセンターの日下幸夫課長は「昨年中に四千四百件あった個別相談のうち、千七百件が『自分が何をしたらよいのか』といった自分探しの質問だった。ただ適性検査は、適性を書類で限定的に見させてしまう危険性が高く推奨しない。自分探しは自分で」と言い切る。

 教育評論家の尾木直樹氏は「適性検査はここ数年、就職試験や大学内での就職対策として多用されている。こういう手法は手段も結果も分かりやすく、導入する側も受ける側も依存性が高くなる。しかし現実には企業という権力側が選別のために用いる性格が強い」とした上で批判する。

 「この検査で進路を決めると、客観的には適正に見えるかもしれないが、心から望む仕事に就けるかどうか分からない。仕事観は人生の経験や出会いで醸成されるもので、紙切れで決まるものではない」

 就職問題に精通する評論家の赤池博氏は、検査を導入する企業側に批判を目を向ける。

 「実務経験のない学生に、適性があるかないかを試験するには無理があり、そんなことは企業は百も承知だ。この検査を介在させる狙いは、有名大学と無名大学、男性と女性の選別だ。落ちた側に『試験が悪かったから』と言い訳に使うことができるからだ」

 京都女子大学教授で精神科医の野田正彰氏も「ばか正直に適性検査の対策を練り、練習を重ねて高得点を獲得するのは可能だ。だが実際の選考基準は、検査前に出来上がっている。これでは、あまりに学生を就職産業の食い物にしていないか」と手厳しい。

 野田氏は「不況で余力がないのかもしれない。だが、人事担当者は、学生と直接対話し、人材に厚みを持たせる努力をすることが、学生と企業双方の将来に利益をもたらす」と企業側に注文を付ける。

 一方、尾木氏は「今の学生は親の仕事を見る機会もほとんどなく、大人になるまで労働と縁遠い生活だ。大学でインターン制による企業体験の機会を増やすなど、仕事観を豊かにする工夫が必要だ」と大学側に改革を求める。

 ■「じかに訪問し足で稼がねば」

 赤池氏は就職戦線にいる学生たちにアドバイスを送る。「就職の王道は、OBや企業をじかに訪問するなど足で稼ぐこと。それに尽きる。職種もさることながら、企業との相性はお見合いと一緒だ。雰囲気を体で感じることが重要だ」


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20031102/mng_____tokuho__000.shtml