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2003年11月01日(土) 00時00分

多くの闇残したまま結審 麻原被告公判を検証 麻原彰晃被告の弁護側最終弁論を終え、会見する渡辺脩弁護団長(手前)ら=31日午後、東京・霞が関の弁護士会館で 東京新聞

 オウム真理教の麻原彰晃被告(48)=本名・松本智津夫=の公判が三十一日、結審した。初公判から七年半。検察、弁護双方が全力を注いでまとめた論告要旨と弁論要旨はそれぞれ二百八十五ページと八百十四ページに及ぶ。麻原被告が危険な教義を説くことで、教団が「殺人者集団」に変容していく過程を解き明かした検察側に対し、弁護側は共犯者らの証言を綿密に検証し反論した。激しくぶつかり合った裁判の争点を検証した。 

  (社会部・浜口武司)

 ■『宗教家』か

 検察側主張は、麻原被告が異端の教義を説き、敵対する者に対しては殺人さえも肯定したというものだ。さらに、政界進出をもくろんだ総選挙での惨敗から、自らが絶対者として君臨する「オウム国家」の建設を企てたとする。そこには宗教の仮面をかぶった「カルト集団」の姿がある。

 これに弁護側は真っ向から反論。「麻原被告の宗教思想は、伝統的な仏教、古代ヨガの流れをくみ、継続的な修行と教典の研究、自己の霊感によって築き上げられた」と述べ、麻原被告を「真の宗教家」とした。教団の目的は「人類の救済」だったとの主張だ。

 教団暴走の原点とされる坂本弁護士一家殺害事件では、麻原被告が「坂本弁護士をポアしないといけない」と弟子に語ったとされる。この「ポア」を検察側は「殺人」の意味だと解説する。

 ところが、弁護側によるとポアは「意識を高めること」。殺人の意味でポアという言葉を使ったことはなく、坂本弁護士の殺害を指示したこともないと主張する。

 ■弟子の暴走か

 弁護側の最終弁論で中核を成したのは、一部の弟子が麻原被告の知らない間に一連の凶行に走ったという論理だ。

 ハルマゲドン(世界最終戦争)に危機感を抱く中、マスコミや警察への反感を強めた高弟たちが「対抗のため銃器や化学兵器で武装化した」と弁護団は言う。

 教団の巨大化につれ、内部にもうけた「省庁制」の各大臣に運営が任され、体調の悪い麻原被告は「神の化身として祭り上げられた」とも述べる。

 中でも弁護側が黒幕と名指しするのが、教団ナンバー2で、警察による強制捜査が進行中の一九九五年四月に刺殺された村井秀夫元幹部=当時(36)。弁論では「村井は麻原被告の制止の指示に従わなかった」とする。

 一方検察側は、総選挙で惨敗し、社会を憎悪した麻原被告が「自らハルマゲドンを引き起こし、オウム国家を建設しようとした」と指摘する。

 最初の無差別殺人である松本サリン事件の目的の一つは「大量殺りく兵器としてのサリンの効果を確かめる人体実験」。さらに「弟子が勝手に殺人などをするとは考えられない」と主張する。

 ■犯行の指示は

 すべての事件で実行犯との共謀共同正犯に問われた麻原被告の有罪・無罪を決める最大のポイントは共謀の有無だ。

 検察側によると、地下鉄サリン事件では、事件二日前の九五年三月十八日未明、山梨県上九一色村へ戻るリムジン車内で麻原被告が「サリンじゃないとだめだ。マンジュシュリー(村井幹部の宗教名)、おまえが総指揮でやれ」と命じ、謀議が成立したとされる。

 弁護側は、謀議の場面に触れた井上嘉浩被告(33)=二審審理中=の証言を「うそ」と断定。「リムジンには、ほかに四人がいたが、指示を否定する証言がある。井上供述は不合理で信用できない」という理由だ。

 検察側も井上証言については「自己の責任をわい小化し、死亡して反論できない村井幹部に責任転嫁するもの」と述べ、全面的に支持するわけではない。だが、それ以外は「他の証拠とも合致しむしろ信用性は高い」として、立証の大きな柱に位置づけている。

    ◇

 麻原被告の「謀議責任」が立証されていないとする弁論は、その分量もあって迫力がある。しかし、弟子たちの証言や供述などをもとに事件を描いた検察側の筋書きには、より説得力がある。教団幹部の有罪判決が次々と教祖との共謀を認定する中、弁護側の不利は否めない。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/kakushin/20031101/mng_____kakushin000.shtml