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2003年10月31日(金) 00時00分

スタートできぬ京都議定書 東京新聞

 日本の都市名を冠した、地球温暖化防止のための国際的な約束「京都議定書」が出口の見えないトンネルに入ってしまったようだ。京都議定書は、ロシアさえ批准すれば発効する段階だが、そのロシアが今秋、慎重姿勢に転じたため、目前ともいわれていた発効の見通しが立たなくなったのだ。ロシアは批准するのか? 京都議定書は本当に発効できるのか? (社会部・増田恵美子、モスクワ・滝沢学)

 風向きを変えたのは九月二十九日から五日間、モスクワで開かれた「世界気候変動会議」だった。事前の一連の情報から、当初は「プーチン大統領が批准宣言するのでは」と国際的にも注目されていた。ところが、大統領の実際の言葉は「国益を考慮して決定する」という素っ気ないもの。期待が裏切られた反動で、環境省内からは「やっぱり、ロシアはロシア」と“恨み節”も漏れた。

 今月二十日、バンコクで行われた日ロ首脳会談では小泉純一郎首相が直接、プーチン大統領に批准を呼びかけた。しかし、大統領の回答は世界気候変動会議の時とほぼ同じ内容にとどまった。

 京都議定書は(1)批准が五十五カ国(2)批准先進国の二酸化炭素排出量が一九九〇年時の総量の55%−に達した日から九十日後に発効する。現在、批准は百十九カ国に達しているだけに、問題は44・2%にとどまる先進国の排出量。36・1%を占める最大排出国の米国が離脱している以上、17・4%のロシアの批准が不可欠だ。発効目標は昨夏の環境・開発サミットだっただけに遅れている。

 今回の“変心”は、ロシア政府内で批准が「国益」、すなわち経済的利益につながるかを見極めようとの動きが急速に高まったためとみられる。

 具体的には、まず京都議定書独特の仕組みである、先進国間で温室効果ガス排出量を売買する「排出量取引」での利益の問題がある。

 ロシアはソ連崩壊による工業生産の低迷で排出量が大幅に減り、議定書が定める削減目標値を下回るため、余った排出枠を「売ることができる側」とみなされるからだ。

 この点に関してプーチン大統領は、五月に二〇一〇年までの国内総生産倍増計画を掲げたことから、批准が経済成長の足かせにならないかと、懸念し始めた可能性もある。

 次いで議定書実行のための資金や投資の獲得、世界貿易機関(WTO)加盟交渉の問題。いずれも、欧州連合(EU)や日本から有利な条件を引き出せると見て、駆け引きに乗り出したとの観測がある。

 さらには、政治的に十二月の下院選、来年三月の大統領選をにらんでいるとの見方も加わる。また、温暖化問題そのものへの大統領周辺の疑念も伝えられ、これには環境省幹部は「何を今さら…」。

 このようなロシアに対して「経済的利益ではなく、正論として地球温暖化防止の観点から、辛抱強く早期批准を訴えていきたい」(炭谷茂環境事務次官)という直球が届くのか。日本政府の手腕も問われる。

 ただし「京都議定書は発効できずに崩壊」という悲観論が浮上しているわけではない。「排出量取引に参加したいロシアが批准しないことは考えられない」(環境省幹部)。このほど来日したロシアの世界自然保護基金(WWF)の温暖化問題担当者も「批准の問題は時期だけ。可能性が高いのは来年四−六月では」との見方を示した。

 しかし、発効が遅れるだけで、国内の温暖化対策の求心力が低下する懸念がある。環境NGO(非政府組織)「気候ネットワーク」の平田仁子さんは「日本も環境省は京都議定書に熱心だが、産業界には反対勢力もあり、欧州のNGOからは不熱心な国と見られている。ロシア問題も重要だが、まずは遅れている自国の温暖化対策を堅実に進めるべき」と指摘する。

 京都議定書にとって発効はゴールではない。米ロに揺さぶられようとも、トンネルを抜けて初めて、スタートラインに立つことができる。

 (メモ)京都議定書

 地球温暖化防止を目的に1992年に採択された国連気候変動枠組み条約の強化のため、97年に京都市で開かれた同条約第3回締約国会議(COP3)で採択された。「第1約束期間」の2008−12年間に、先進国の温室効果ガス排出量の90年比5%削減など具体的な数値目標を定めている。数値は国別で、日本は6%削減。目標達成のため、排出量取引など「京都メカニズム」と呼ばれる仕組みがある。実施ルールは01年のCOP7で最終合意。日本は02年6月に批准。今年12月、イタリア・ミラノでCOP9が開かれる。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/kakushin/20031031/mng_____kakushin000.shtml