悪のニュース記事

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2003年10月31日(金) 12時57分

春秋日経新聞



 「尊師」と呼ばれた男の裁判が7年半という長い歳月を経てきのうようやく結審し、来年2月の判決を待つ。サリン事件をはじめ多数のむごい犯罪で理不尽に肉親を奪われた被害者の遺族には、悲しみと憤りが反復する日々だったろう。

▼高学歴の若者を取り込んで、荒唐無稽(こうとうむけい)な教義をもとに信者ばかりか多くの無関係な市民の命を奪った。その中心にいた被告を弁護側は最終弁論で「宗教家」と位置づけ、「事件は弟子の幹部らが暴走して起こした」と無罪の主張を展開した。裁判上の技術としても、遺族たちはこんな論理をどう受け止めたろうか。

▼「教祖」の指示による犯行が他の多くの判決で認定されていながら、松本智津夫被告の裁判は当初から難航した。私選弁護人の解任で初公判が大幅に遅れた上、弁護の進め方を巡って当人が反発し、やがて接見を拒んだことから裁判は長期化した。「口を開かぬ被告」が弁護側の困惑とあせりを生んだのだろうか。

▼最近の法廷で見たかつての「尊師」の後ろ姿は粗暴で落ち着きのない小柄な中年男にすぎない。しかしその主宰する奇怪なカルト宗教に若い医師や研究者が身を投じ、未(み)曽有(ぞう)の反社会的な犯罪を重ねたのはなぜか。裁判がその問いに答えないのなら、事件で命を落とした人たちと家族の無念はいつまでも晴れない。

http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/20031031MS3M3101831102003.html