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2003年10月21日(火) 00時00分

オウム東京高裁判決で波紋 『終身刑』 東京新聞

 オウム真理教の元幹部中村昇被告(36)に「終身刑」という言葉で言い渡された無期懲役判決が静かな波紋を広げている。現行刑法にない「終身刑」という言葉が裁判で使われた例はほぼ皆無で、法曹界では「いよいよ裁判所も終身刑の必要を認め始めたか」と驚きの声があがる。死刑と仮出獄が可能な無期刑では、天と地ほどその重みは違う。中間刑ともいう「終身刑」への言及に中村被告は不服をあらわに上告したが、刑法改正を担う国会議員は目前の総選挙に手いっぱいで、死刑論議は争点にも挙がらない。 (社会部・浜口武司)

 「主文の言い渡しは後にします」。先月二十五日の判決公判、東京高裁の仙波厚裁判長がそう告げると大法廷にざわめきが走った。中村被告の一審判決は「無期懲役」。主文が後回しになるときは死刑判決が言い渡されることが多く、検察側の求刑通り、量刑が死刑に変更されることも予想されたからだ。

 ところが、一時間半余に及ぶ判決理由の読み上げの終盤、仙波裁判長は言った。「極刑(死刑)に処することはちゅうちょせざるを得ない」。そして「極刑と境界を接する無期懲役刑、言い換えれば終身刑、もしくは終身刑に近い無期懲役刑が相当」と続けた。

 「終身刑」に言及した判決は極めて少ない。わずかに「仮出獄を許さない無期懲役刑が考えられる」と述べた広島地裁(一九九六年)や横浜地裁(二〇〇〇年)、将来の法整備の選択肢として終身刑を挙げた広島高裁岡山支部(〇二年)の例があるほか、名古屋高裁(同)で判決言い渡しの後に「君の場合は終身かもしれない」と説諭したことがあるくらいだ。

 仙波裁判長のように、直接的に表現した例はほかに見あたらない。

 東京高裁の別の裁判官は仙波裁判長の気持ちを推し量る。「今の無期懲役刑は平均して二十年ほどで仮出獄になる。死刑と無期懲役刑の間には大きな違いがあり、仙波さんは終身刑という言葉で『簡単に仮出獄できる罪ではない』というのをにじませたのだろう」

 一方、有期刑を求めて控訴していた被告側は不快感を隠さない。小田幸児弁護士は「仮出獄を決めるのは、行政(地方更生保護委員会)の判断。刑法には終身刑がないのに、裁判所が『いつまでも刑務所にいろ』と強調する必要があるのか。被告本人も『なぜ、そこまで言われないといけないのか』と心外だったようだ」と話す。

 刑法二八条では、無期刑の受刑者でも、服役後十年がたち、改悛(かいしゅん)が十分だと認められた場合には、更生保護委員会が仮出獄を許可できる。

 法務省によると、仮出獄までの平均服役期間は二十二年余。早ければ十四、五年で仮出獄することもあり、死刑との差は歴然だ。

 与党三党の「終身刑に関するプロジェクトチーム」(二〇〇〇年)に講師に招かれた元仙台高裁長官の小林充・東洋大教授は、死刑の代替刑としての終身刑には懐疑的な立場だが「死刑と無期刑の格差は大きく、その間隙(かんげき)を埋める意味で終身刑はあった方がいい。国民感情からも死刑廃止は簡単ではないだろう」と話す。

 一方、死刑廃止論者たちは、今回の判決を追い風と受け止める。超党派の「死刑廃止議員連盟」(亀井静香会長)で事務局長を務める保坂展人前衆院議員(社民)は「注目すべき判決。死刑廃止までの道は遠いが、われわれが問題提起した意味は少しずつ社会に浸透してきている」という。

 しかし、刑法改正に向けた国会の論議は進んでいない。同議連は今年六月、事実上の終身刑となる「重無期刑」の導入を柱とする「死刑臨調設置法案」を提出しようとしたが、自民党内の反対が強く断念している。

 十一月九日の総選挙に向け、衆院は「選挙モード」に突入。終身刑論議は中断したままだが、保坂前議員は「来年の通常国会には同法案の提出を目指したい。後は、われわれがどれだけ再選されるかだ」と話す。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/kakushin/20031021/mng_____kakushin000.shtml