2003年10月16日(木) 00時00分

『みちプロ』都に参上 新社長奔走、１０周年興行　来月フィナーレ 決め技「極楽固め」をかける新崎さん。「じんせーい！」と声が飛ぶ＝岩手県一関市の一関文化センター体育館で （東京新聞）

　日本初の地域密着型プロレス団体として、ザ・グレート・サスケ（３４）が「みちのくプロレス」（略称みちプロ、本拠地・盛岡市）を旗揚げして１０年。昨年来、全国を巡ってきた１０周年記念大会は、９月の岩手・安比高原での凱旋（がいせん）興行を終え、いよいよ来月２日、東京・江東区の有明コロシアムでフィナーレを飾る。普段とは規模も勝手も全く違う大会を前に、サスケから社長を引き継いだ新崎人生（しんざき・じんせい）さん（３６）は大忙し。リング衣装を背広に着替え、スーパーマンさながらに全国を飛び回る新崎さんを追った。

　「東北を中心に、地域に愛される娯楽としてプロレスを根付かせたい」というサスケに共感し、新崎さんは発足当初からそばで支えてきた。

　普段の会場は町の体育館で、切符売りもリング設営も自前で行う。観客動員数は平均約八百人。三分の一は子供で、三分の一はお年寄り。「芝居一座のドサ回りそのもの」（新崎さん）のみちプロが、十年間の集大成として晴れ舞台の有明に乗り込む。

　「地域密着」を掲げながら東京で“最終章”の大会を行うのは、全国に広まったファンへのメッセージだという。

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　「うわっ、広っ！」。十日、会場を下見に来た新崎さんに同行して有明コロシアムに足を踏み入れた撮影スタッフから思わず声が漏れた。

　「伝説をつくらなきゃ」とだれかが言うと、新崎さんは静かにうなずいた。だが、舞台監督、大会を中継するテレビ局などとの打ち合わせでは、当惑の連続だった。

　一八〇センチ一〇六キロの体を背広に包んだ新崎さんに、会場を管理する都の職員がたたみかける。

　「駐車場の誘導は」「試合後の清掃業者の手配はどうします」「ＩＤカードは用意できますか」

　社員十人の小所帯。経営も楽じゃないのに、お札に羽が生えたように次々と出費項目が増える。

　「あっけにとられた。私にできるのは頭を下げるだけ」と新崎さん。

　その後は、自ら車のハンドルを握り、次なる仕事の記者会見場へ。東京での大会準備に追われる平日の日程をこなし、週末は東北へ帰って、本来の「寡黙で美しい修行者」レスラーに戻る。

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　「ゴーン」と会場に鐘の音が響き渡る。十二日、岩手県の一関文化センター体育館。シャリーンと鳴る錫杖（しゃくじょう）を手に、お遍路さんの白装束姿の“レスラー新崎人生”が現れた。大げさにアピールする他のレスラーと対照的に、静かに目を閉じて合掌。僧侶も「本物」と認めるたたずまいにファンはうっとり。

　相手の腕をねじり上げ、もう一方の手で拝みながらロープを渡る「拝み渡り」などきめ技も、格調がある。試合を終えたら巡業バスに乗り込み、次なる地へ。三連休は出ずっぱりだった。

　東京在住の著名人にもみちプロファンは多い。

　今回、在京事務所を買って出た精神科医の香山リカさんは「昔の村芝居のように、子供からお年寄りまで東北の人々の生活の一部になっている。衣装が派手で空中技も多くサーカスに近い一方、レベルも高い」と、その魅力を語る。

　「新崎人生」の名付け親、俳優の宇梶剛士さんは「初対面の時、眼光が鋭いのにたたずまいは静かで、こいつは違うぞと感じた。静かな迫力は本物。“面白い物を作るからみんな見てくれ”という姿勢にあふれた彼らが都に挑むのだから、きっと特別な物を見せてくれると思う」と期待する。

　巣立っていった選手も含め、これまでに「みちプロ」に在籍した選手は約三十人。新崎さんは十年間の歴史を一挙に見せようと、ＯＢ全員と出場交渉を続けている。

　同時に、結婚や就職を機にプロレスから遠のいてしまった昔のファンにも、ぜひ来場してほしいと願っている。

　目玉のカードは、四年前にサスケと袂（たもと）を分かって出ていった大阪プロレス社長のスペル・デルフィン選手とサスケの対戦だが、記者お薦めの見所は、子供に人気抜群の三宅島出身レスラー「つぼ原人」。とにかく楽しい。問い合わせは、電＝０１９（６２６）１３３３＝へ。

　文・井上圭子／写真・久野功、五十嵐文人／紙面構成・長谷川美穂

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