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2003年09月30日(火) 00時00分

りそな発金利ダンピング合戦  公的資金で参戦 東京新聞

 メガバンク(巨大銀行)間で貸出金利の引き下げ競争が起きている。この“震源地”は、2兆円の公的資金を投入されたりそな銀行のようだ。顧客に資金を出したがらない貸し渋りとは、逆の現象だ。大銀行の一部が態度をひょう変させた理由は何か。銀行営業の最前線でぼっ発した低金利合戦を観察してみると−。

  (市川千晴) 

 ■0.4%

 東京都内で、ある大銀行支店に勤務する三十代の行員が、取引先の中小企業経営者から相談を受けた。

 「融資を受けているりそな銀行か東京三菱銀行で、短期の借入額を増やそうと思っている。りそなは東京三菱より低い0・4%の利率を提示してきたけど、そんな低利で銀行は採算取れるのかな。どっちから借りたらいいかアドバイスがほしい」

 別の大銀行に勤務する二十代の行員も、都内の支店で同じような場面に出くわした。相談を持ち掛けたのは、経営状態の良い中小企業の経理担当者だ。

 「りそな銀行とみずほ銀行から、0・6%の利率を提示され『借入額を増やしてほしい』と頼まれた。これまでこんな低い金利はなかった。ちょっと不安だ」

 中小企業経営者らは一様に利率の低さに驚く。そこで、銀行員にこの金利設定のメカニズムを聞いてみる。

 前出の三十代の行員は「企業から資金の借り入れ要請があった場合、これまでは短期プライムレート(最優遇貸出金利)の1・375%に準じて金利を決めていた。しかし、最近はこれよりもっと低い東京銀行間取引金利(TIBOR)を基準にしている」と説明する。

 その上で「これに人件費や営業経費などを上乗せしてはじくと、中小企業向け金利は大体0・6−0・8%になる。りそな銀行などが提示する0・4−0・6%の金利だと、ほとんど採算がとれず逆ざやになる。つまり利益が出ない。かなりのダンピング状態といえる」と感想を漏らす。

 これまで公的資金を注入されているのはみずほ、三井住友、UFJ、りそなの各グループだ。低金利の実態を大銀行に確認してみた。

 りそなホールディングスの担当者は「公的資金注入前も後も、取引内容や信用力に応じた適正な金利運営を行っている。ただ他行との競合上、0・4−0・6%の金利はあり得る」とあっさり認めた。

 みずほフィナンシャルグループの担当者は「貸出金利は、企業の格付けや業績、担保があるかないかなど取引先ごとの条件に基づいて決める。客によっては0・4−0・6%の金利で貸し出すことはあり得る。その金利設定はりそな銀行の影響というより、メガバンク同士で、取引したい顧客がバッティングしてしまうからだ」と客の引き合いの結果、低金利合戦が繰り広げられている点を認める。

 ■『中小企業を狙え』

 一方、三井住友銀行の担当者は「確かに、公的資金注入の条件に中小企業向けの貸出残高を増やすという項目はある。だが逆ざやが出る金利は、厳格な行内の審査や監査を通らないので現実にはない」と否定した。UFJ銀行、東京三菱銀行も損が出る金利は「あり得ない」という。

 銀行界の公式見解はさまざまだが、営業現場に立つ行員の目は冷ややかだ。

 ■借り換え少なく冷静なのは顧客

 中小企業経理担当者から相談を受けた冒頭の二十代行員が話す。

 「りそながやっているのは、二兆円のお金をもらったからできること。顧客を維持するためか、失ったシェアを戻そうとしてディスカウントするんだろうが、フェアじゃない。一番冷静なのは顧客だ。この営業戦略が長続きし
ないと思っているのか借り換えする企業は少ないようだ」

 大銀行本店で営業を担当する別の二十代行員も同様だ。

 「りそな銀行は経営が不安視されていたころ、自己資本比率の低下を防ぐため、資産となる貸出金を圧縮しようと融資を控えていたようだ。今度は二兆円の注入を受けて自己資本比率が厚くなったから一気に融資攻勢に出たんだろう」

 「だが借り手である企業側の状況は、そう簡単にはいかない。銀行から新たに融資を受け入れる体力がない企業も多い。資金を借りず自力調達する体制をつくった企業もある。りそなは、貸出金額を増やして経営の体裁を整えようとした。だが損が出るまで金利を低くしないと借り手が見つからないのだろう。悲惨な話だ」

 金融専門家にこの実態を診断してもらった。

 まずHSBC証券のシニアアナリスト、野崎浩成氏が、背景にある大銀行の経営環境を分析する。

 ■業務改善命令で収益確保に走る

 「二〇〇三年三月期決算で、大幅な赤字を出して金融庁から業務改善命令を受けた大銀行は、収益を出さないと経営責任を問われる。だから貸出金残高を増やし金利収入を得ることに懸命だ。一方で、株価は堅調で自己資本比率を心配する必要も減った。その中で、貸出先の獲得競争が激化した。さらに顧客だけでも確保しようと、損覚悟で金利ダンピングに走る銀行が出てきたのではないか」

 野崎氏は警鐘を鳴らす。

 「銀行がこれまで赤字決算に陥ってしまったのは、リスクに見合う金利を取らなかったことだ。りそな銀行は、公的資金注入で台所事情が楽になったから、再び競争に飛び込んでいるんだろう。ほかの大手行も当てはまるが、長期的に安定したビジネスをしないと今までと同じ道をたどることになる」

 ■「パイは小さく市場荒らしだ」

 経済評論家の三原淳雄氏もくぎを刺す。

 「ピーク時と比べ、銀行の貸出金額が百兆円減っているように、融資先のパイは小さくなっている。大企業は今後、市場から資金調達を増やしていくから、銀行の客は中小企業が中心になる。問題なのは将来有望な中小企業に銀行がしっかり貸せるかどうかだ。公的資金は返済しなければいけない金だ。低金利合戦をしている暇があったら、有望な中小企業を見つけるべく審査基準を見直すべきだ」

 エコノミストで日本証券経済研究所の主任研究員紺谷典子氏は、債務を免除された大手建設会社の例を挙げて批判した。

 「借金を棒引きしてもらった建設会社が、銀行の支援で息を吹き返し安値受注競争を激化させ、業界全体の収益が先細りしたのに似ている。大銀行の場合、融資していた企業を産業再生機構に渡して事実上破たんさせたケースもある。その一方で、目先の営業成績を上げるため超低金利の融資をして市場を荒らしている。これじゃ政府は何のために二兆円を注入したのか分からない」


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20030930/mng_____tokuho__000.shtml