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2003年09月27日(土) 14時05分

社説2 トロンの歴史的和解の意味日経新聞



 米マイクロソフトと国産基本ソフト(OS)「トロン」の開発団体がデジタル家電の開発で提携した。パソコンの基本ソフトを巡る両者の対立は1980年代に日米通商摩擦の種にもなったため、提携を「歴史的和解」と呼ぶ声がある。しかし、デジタル技術の開発競争が新たな段階を迎えた今、今回の提携はもっと前向きに評価する必要がある。

 内容は「トロン」を推進する団体「T—エンジンフォーラム」にマイクロソフトが参加し家電向けOSの「ウィンドウズCE」をトロン上で動かそうという狙いだ。同団体にはソニーやNTTドコモなど約250社が参加しており、自社OSを軸に事業を展開してきたマイクロソフトは名を捨てて実を取った形だ。

 提携はマイクロソフトからの働きかけで実現したが、背景には携帯電話や自動車などの制御用OSとしてトロンが大きな実績を上げていることが見逃せない。パソコンでは業界標準をマイクロソフトに譲ったが、今後急拡大するデジタル機器では、プログラムが小さく、組み込みに適したトロンの方が有利だからだ。

 マイクロソフトを取り巻く環境の変化も影響している。インターネットの普及段階ではネットへの接続機能を持った同社のOSが重宝されたが、様々な情報サービスがネット上で展開されるようになると、OSの重要性は相対的に薄れた。無償配布OSの「Linux」が急速に広がっているのもそのためである。

 仲介役を果たしたマイクロソフトの古川享副社長は恐る恐る案件をビル・ゲイツ会長に上げたそうだが、意外にも「エキサイティング(いい考えだ)」という返事が返ってきたという。ゲイツ氏は90年代初めに「指先の情報革命」という将来構想で今日のユビキタス(いつでもどこでも)情報時代をウィンドウズを軸に描いたが、その実現は1社では難しいと気づいたに違いない。

 換言すれば、パソコンやネット時代は米国が主導権を握ったが、組み込み技術を必要とするユビキタス情報時代は日本の出番だともいえる。今回の提携は「日本の名誉回復」というより、日米の新たな技術協力の始まりと位置づけた方が「歴史的和解」の本質が見えてくる。

http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/20030927MS3M2700M27092003.html